日曜日、悲しんでいるあなたが好き

 泣き顔がどの角度からでも美しく見えるように――と、造られているとのことだった。そして実際に本物を目の当りにしたら、確かにそうなるように設計されているらしいのがFには一目でわかる。
 彼は葬式で会ったら目を惹きそうな顔立ちをしていた。肌は永訣の日にふさわしく適度に血の気が欠けた色をしている。けれども全く機械的というわけではない。まつ毛の陰が落ちている眼元は、瞳に嵌め込まれた人造エメラルドの輝きと色合いとにあいまって儚げに思えた。とはいえ弱々しいというのでは全くない。そんな風に絶妙な塩梅に計算されていた。
「彼は百年という長きに渡って人類のためによく働き、我々の魂のために尽くしてくれた。しかし今回のOSの大規模更新を契機に、後進に活躍の場を譲って堂々たる勇退となる」
 自室のソファで寛いでいるバイオノイドをマジックミラー越しに見やりながら、隣にいる所長が言う。また同じように彼の姿を眺めつつ、Fはこう口にする。
「つまり、お払い箱ですか」
「口を慎め。彼はこのあいだまで私や君や、その他の有象無象の代わりに難しい任務にあたっていたのだ。私たちが血の通った人間である限り、彼に敬意を払わずには済まされない」
 そこのところが退院してからのお前の悪いところだ、と所長はFに向かって口にする。ついでほれ、と冊子をこちらに手渡してきた。辞書くらいある分厚い冊子だ。これは取扱説明書だと相手は述べる。
「職務から身を引くとはいえ、彼はまだ十分に機能する。人間で例えるなら健康的な身体があって、そのうえ予定に大きな空白が出来たということだ。もっとも仕事に捧げられていた時間よりも遥かに短いものだろうが」
「前途洋々のセカンドライフとは結構なことですね。羨ましい限りで」
「その限りある時間を実り豊かなものにしてほしいと私たちは考えている。君にはその手助けをしてほしい」
「手助け?」
「彼の生活上のパートナーとなることだ」

【続く】

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高野優

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