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珍味とゲテモノの間合い

ギリシャ最大の島、クレタ島のシンボルはヤギです。

ヤギはヤギでもクレタ島だけに生息するクリクリ種という野生のヤギ。

絶滅危惧種で厳重に保護され食べることはもちろん捕獲も禁止されています。

島で食べられるのはクリクリ種とは別の家畜化された普通のヤギです。

西洋ではヤギは1万1千年ほど前にトルコ、イラク、キプロスなどで家畜化され、およそ9千年前に家畜法と共にクレタ島にも伝わりました。

そこから欧州全体に広まるのにはあまり時間はかかりませんでした。

一方クリクリ種のヤギは、家畜化される前の野生ヤギの特徴を保持しているとされます。

クレタ島ではその姿がデザイン化されて、島の役場や観光業界の文書、またヤギ料理を提供するレストランなどのエンブレムとしても用いられています。

原始的なその不思議な動物は、食べることはできませんが島人に大いに愛されているのです。

クリクリヤギは過去に乱獲されて数が激減しました。

乱獲のエピソードで有名なのは、ナチスドイツに抵抗するギリシャ・パルチザンの男たちの物語。

彼らは山に潜んでナチスと闘争を展開した際、ほとんど何も食べるものがなかったために、クリクリヤギを捕らえて食べては命をつなぎました。

そのときの乱獲も大きくたたって、クリクリヤギは絶滅の危機にひんしています。

片や食用になる家畜のヤギは島には非常に多い。羊も多い。当然ヤギ肉や羊肉料理もよく食べられます。レシピも多彩です。味も抜群に良い。

クレタ島のヤギ料理は煮込みと炭火焼きが主体。ワインやハーブやオリーブ油などで作った独特のタレで味付けをします。

タレはそれぞれの家庭やレストラン秘伝のものが多い。

あらゆるタレはヤギ肉の臭みを消すと同時に素材に芳醇な味わいを加えるのが主眼です。

個性的で、斬新で、美味な事例が少なくありません。

その点、初めて食する人に肉の臭みが敬遠されることもある、例えば沖縄諸島のヤギ料理などとはかなり趣が違います。

もっとも沖縄諸島のヤギ料理の場合は、肉の臭みを敢えて風味と見なしてそれを売りにすることで、少数の熱狂的な愛好家に支持されているらしい側面もありますから、それはそれで面白い。


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