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ベルルスコーニの最後の奉公


ベルルスコーニ元首相に関する直近の記事を読んだ読者の皆さんの中には、彼のイタリアにおける影響力が極めて大きいと考える人も多いようです。

それは筆者の書き方が悪いのが原因です。非力を謝罪したうえで少し付け加えておきます。

ベルルスコーニ元首相は90年代初め以降、イタリア政界に多大な影響力を持ち続けましたが、アップダウンを繰り返しながらその力は右肩下がりに下がり続けました。

2011年にはイタリア財政危機の責任を取らされて首相を辞任。支持率は急降下しました。

そして2013年、脱税で有罪判決を受けて公職追放となり議員失職。彼の政治生命は絶たれたと見られました。

ところが元首相は2019年、公民権停止処分が解除されたことを受けて欧州議会選挙に出馬。何事もなかったかのように欧州議会議員に当選しました。

イタリアのメディアの中には彼を《不死身》と形容するものまで出ました。

しかし、ベルルスコーニ元首相率いる「FI(フォルツァ・イタリア党)」の、先日の総選挙における得票率はわずか約8%。かつて飛ぶ鳥を落とす勢いだった政党としてはさびしい数字です。

非力なFI党首のベルルスコーニ氏が影響力を持つのは、同党が選挙で大勝した右派連合の一角を占めるからです。

右派連合の盟主は、次期首相就任が確実比されているジョルジャ・メローニ氏が率いる極右「イタリアの同胞」です。

ジョルジャ・メローニ氏はかつてのベルルスコーニ政権で、31歳の史上最年少閣僚として起用された過去を持っています。

両者の立場が逆転した今、メローニ氏が自らの政権内でベルルスコーニ氏を優遇する可能性は十分にあります。

醜聞と金権と汚職にまみれたベルルスコーニ元首相が、支持率を落としながらもしぶとく生き残ってきたのは、物理的な側面から見れば彼がイタリアのメディアの支配者である事実が大きい。

インターネットが普及した欧州先進国の中にあって、イタリアは未だに既存メディアが大きな影響力を持つ国のひとつです。特にテレビの力は巨大です。

イタリアのメディア王とも呼ばれる元首相は、自らが所有するテレビ局のニュースや番組やショーに頻繁に登場して自己アピールをします。

日本で言えば民放全体を束ねた勢力である元首相所有のMEDIASETが、堂々とあるいは控えめを装って、ベルルスコーニ元首相の動きを連日報道するのです。

そうした実際的な喧伝活動に加えて、多くの国民が元首相を寛大な目で見ることも彼の生き残りに資します。

ほとんどがカトリック教徒であるイタリア国民は、「罪を忘れず、だがこれを赦す」というカトリックの教義に深く捉われています。

彼らはベルルスコーニ元首相の悪行や嫌疑や嘘や醜聞にうんざりしながらも、どこかで彼を赦す心理に傾く者が多い。

たとえ8%の国民の支持があっても、残りの92%の国民が強く否定すれば彼の政治生命は終わるはずです。

だがカトリック教徒である寛大な国民の多くが彼を赦します。つまり消極的に支持する。あるいは見て見ぬ振りをします。

結果、軽挙妄動の塊のような元首相がいつまでも命脈を保ち続けることになるのです。

要するにベルルスコーニ元首相は、右派連合が分裂しない限り、メローニ政権内で直接・間接に一定の影響力を行使することでしょう。

彼の動きはいつものように我欲とまやかしに満ちたものになるに違いありません。それは連立政権を崩壊させるだけの「数の力」を持っています。

だがそれだけのことです。彼の時代は終わっています。もしも政権を瓦解させれば彼自身も今度こそ本当に政治生命を絶たれます。

86歳にもなった元首相はそんな悪あがきをすることなく、彼が唯一イタリア国民のために成せることをしてほしい。

つまり前回も書いたとおり、極右的性格のメローニ政権がEUに反目して国を誤ろうとするとき、諌めて中道寄りに軌道修正させるか、軌道修正の糸口を提供することです。

寛大な国民に赦され続けて政治的に生き延びてきたベルルスコーニ元首相の、それが国民への最後の奉公となるべきと考えますが、果たしてどうなるでしょうか。

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