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生放送中に反戦メッセージを掲げたロシア国営放送女性職員の勇気と知恵

国営放送の生放送中に「戦争反対、戦争をやめて、プロパガンダを信じないで、あなたはだまされている」と掲げて背景に割り込んだ女性はその放送局の職員。戦争をやめるように訴える動画もネットで公開していたという。

国営放送の生放送に割り込む勇気

ウクライナ人の父親とロシア人の母親を持つとされるマリア・オフシャンニコワ。彼女には、2人の子供がおり、これまで同僚に政治を語ったことはなく、子供と犬と家の話ばかりだったという。

今のロシアでロシア政府から見て「誤った」情報を拡散すれば懲役刑になる可能性もある。ウクライナへの侵攻はロシア政府にとっては「特別軍事作戦」であり、「戦争」という言葉を使うことも許されない。欧米の放送局でさえロシアでの放送を恐れる中で、戦争反対を訴えることは子供のいる女性に怖くてできることではない。

でも、この「子供もいるのに怖くてできることではない」という恐れが、歴史上、情報統制や言論統制を行おうと試みる政府を成功に導いてきた。戦時下の日本もそうだった。戦争に反対する考えを少しでも示せば、身柄を拘束され、何時間も尋問され拷問される。特別警察に人間関係を調べつくされ、家族や友人も取り調べられて迷惑をかける。

最大限の効果をもたらした彼女の知恵

歴史上の独裁政権において国内の反対を封じる戦略は、次の2つだった。

①メディアを統制し、政府の望む内容だけを流させる。

②特別警察により逮捕されることへの恐れをもって、賢い国民にも見て見ぬふりをさせる。

彼女の行動とメッセージは、この戦略の一番痛いところをつく考えぬかれたものだ。

まず、政府の望む内容のみを放映する国営放送そのものの中で国民に国営放送を信じないように訴えた。そして事前に録画し公開された動画で次のように語り恐れず行動するよう呼びかけた。

「私たちロシア人には思考力があり、賢い。暴挙を止められるのは、私たちだけ。抗議集会に加わってほしい。恐れないで。当局も私達全員を逮捕することはできないのだから。」

追記 勇気ある行動をとった彼女のその後

改正されたロシアの法律により収監されるかもしれない彼女にフランスから亡命の提案がなされた。これに対し、「愛国者としてロシアに留まる」と述べて断ったという。

「子どもたちは私の行動が『生活を壊してしまった』と考えていますが、私たちは核戦争のような事態になる前にこの狂気を止めないといけない。子どもたちがもう少し大きくなれば今回の行動を理解できるようになると思います」

と話した彼女は活動家でも政治家でもない。子供をもつ一般の母親として恐れを乗り越えた彼女の勇気は多くのロシア人の恐れを取り払うだろう。