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組織内の違法行為の隠蔽を防げない理由 戦争犯罪と企業不祥事と万引きの共通点

1 結束力を高めるための戦争犯罪

 「同志少女よ、敵を撃て」。最近話題の小説。少女達が厳しい訓練を耐え抜き、狙撃兵として頭脳戦を張り巡らせる戦争好きそうな展開に見えて、戦争の悲惨さを伝える小説だ。

 その中で、戦争犯罪としてのレイプがなぜ起こるかということについて、登場人物の一人が、性欲が一番の理由ではないと語る部分がある。

兵士たちは恐怖も喜びも、同じ経験を共有することで仲間となるんだ。…部隊で女を犯そうとなったときに、それは戦争犯罪だと言う奴がいれば間違いなくつまはじきにされる。上官には疎まれ、部下には相手にされなくなる

 小説の中では仲間の行為に加わらず孤立したメンバーも描かれていて、とんでもない話だと思いつつも、現実を突きつけられる。戦争犯罪を犯してはいけないことは誰もが理解しているし、犯したくない。でも、仲間に頼らざるを得ない戦場で、孤立する道を選ぶには力と勇気を要する。

 組織の中で起こる問題を防ぐには、やっていけないと言うだけでなく、絶対やってはいけないことが行われたときの視点が必要になる。

2 少年達の万引きー万引きをするような子ではないのに

 万引きを行って処分を受ける少年達。その中には、万引きをする先輩や同級生に目をつけられ、初めての万引きに手を染めた少年達もいる(万引きを拒んだら、告げ口するとみられて暴行の対象にされかねないからだ)。卒業するまで続く狭い社会で正義を貫くのは容易ではない(実際は抜け出せるのだが、抜け出せないと思いがちだ)。

3 企業の不祥事ーなぜ代々誰も通報しなかったのか

 部署内で改ざんマニュアルが引き継がれ、データ改ざんが長期にわたり行われるといった企業内の不祥事。ようやく入れた上場企業。違反が発覚すれば、上司の身も会社も危うくなる。「これが実務のやり方だ」「大きな事故も起こっていない」「自分の立場から口を出すべきでない」目をつぶって業務を続けるうちにいつのまにか改ざんにかかわる側の一員となっていく。

4 共通する背景

 ほとんどの人には、戦争犯罪が、万引きが、改ざんが、レベルの差はあれ悪いことだと理解できている。問題は、そういう行為が一部のメンバーによって現に行われてしまったときだ。関わったメンバーによる巻き込みと、まわりの黙認を崩せる仕組みをあらかじめ作っておかなければならない。

 通常、重い罰が課せられる行為には抑止効果がある。ただ、一旦起こった後は、重く罰せられる行為であるほど、告発によって、その誰かの身が破滅することが確実になる。曖昧な判断では口をはさめない。疑問を挟むだけで「自分だけ逃げるつもりか」「俺たちを破滅させるのか」と、警戒されかねない。狭いコミュニティーの一員として他人を戒めるには一人で生き抜く力と勇気が必要になる。

 そういった状況の防止の検討が比較的進んでいるのが企業不祥事の分野だ。

・通報者の秘密を守り保護する通報制度
・ローテーションや部署間交流による人材の流動化(閉鎖的なチームにしない)と多様化(いい意味で空気を読めない人間を混ぜる)
・やってはいけない理由の明確化とリーダーの教育(慕われるリーダーほど緩急使い分ける(時に部下に羽目を外させたり違反に目をつぶることもある)ので絶対許容してはいけないことの意識づけ)
・悪意のない失敗であれば隠ぺいしないことを評価する

 もちろん、本当にやってはいけない行為を、誰も行わないことが一番だ。そして、まずは仲間が戒め、第三者に通報してでも防げることが理想である。

 だが、それでもさまざまな経緯で問題は起きる。そして、一度起こった後は「やってはいけない」と倫理的に呼びかけるだけでは拡大や隠ぺいは防げない。「やってはいけない」ことが行われたことは誰でもわかっているからだ。そのときに行為者を中心に起こる集団内での巻き込みやけん制を予測した上で、巻き込まれた個人の勇気に頼ることなく、問題の拡大を防げる体制をあらかじめ備えるべきだろう。