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ウクライナ侵攻をロシア国内の世論で止めるには

歴史上の隣国を侵攻した国の経過


ロシアは、ウクライナへの侵攻により、経済制裁を受け、国連では即時撤退を求める決議が行われている。どうみても侵攻にしか見えないが、ロシアは、ウクライナ東部解放を掲げ、分離主義者の独立宣言を後ろ盾し独立国家として承認すると発表している。
90年前、隣国を侵攻し、国連から即時撤退を求められ、占領地域での満州国の独立宣言を後ろ盾し承認した国があった。
その国は、欧米から経済封鎖を受け、満州からの撤退を求められる中で、アメリカを相手に開戦に踏み切り、敗戦により隣国から撤退した。

侵攻した国でも存在した国内での冷静な主張

日本が満州を占領し国連に提訴された翌年、国民新聞に掲載されたある論稿では当時の日本のおかれた状況が客観的に分析されている。「日本に於いてこそ満蒙の特殊利益という論が国民的常識の一部となっているけれども」、諸外国にはそう受け止められておらず、満州国の承認は、中国の領土保全を約束した日本の締結した条約とも矛盾することが淡々と語られている。
その上で、「あれ程の犠牲を払って樹立した満蒙の権益を見切ることの出来ないのは誰の眼にも明白」としたうえで、条約に反しない形で既成事実を作ることが提案されている。

名義はどうであろうと、吾々は満蒙で何を欲するかという事を明白に意識すれば良いのである。日本があれ程の犠牲を払って樹立した満蒙の権益を見切ることの出来ないのは誰の眼にも明白である。吾国が正面から九国条約や不戦条約に反しない形に於て日満の抱擁を画策するならば、欧米は必ず之に岡焼の半鞭を打込み得ない事を確信する。吾々が体面論を固執せず名を捨てて実をとることを忘れない事が此際の要諦でなければならぬ。それは既に出来上った満蒙国家を指導し、補佐して、国際的の既成事実として外国が承認する時期まで忍耐強く海路の日和を待ちつつ、実際的な日満の協力を進めることが最も賢明な遣り口であるのではないか

『満蒙モンロー主義の限界』蘆田均 国民新聞 1932年6月1日

あれだけ犠牲を払ったのだから撤退することはできないというところは、今の感覚からすれば大きく違和感を感じる。
一方で、これを当然とする当時の国内の論調を考えると、この記事は、世論に最大限に気を遣いつつ、国際情勢に照らして自国の占領を冷静に観察し抑制を求める勇気ある投稿だったのではないか。
そして、その主張を支えるのは、日本に対する他国の批判ではなく、自国が締結した条約や宣言との整合性である。

ロシアの国内の意見を支えるには

ロシア国内で、政府に対する意見を公表する困難は想像に難くない。ただ、もし意見が出せるとすると、その勇気ある意見は、上記論稿の筆者と同じく、諸外国のロシアに対する非難への同調ではなく、ロシア政府自身の発言との整合性の指摘になるはずだ。
最近、ロシアを国連の委員会から外したり大使を追放したりする動きが相次いでいる。ただ、これは逆効果である。ロシアを他国に面する場につなぎとめるほど、ロシアは、国際的な条約に照らした自国の行動の正当化の説明を迫られる。そしてそのロシア自身の説明の先に、ロシア国内の国際情勢に長けた論者による、行動と説明が矛盾しているという意見が生まれる余地がある。