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早朝

早朝、駆ける自転車。僕の向かう方角は灰色の空。晴れ渡る空が見えることはない。大好きな雨の匂いに降る小雨。濡れることへの不快感はなく、清々しいとさえ感じてしまう。
自転車を止め、後ろを見ればこの世界を照らす朝日が僕の背中を照らしている。僕の進む方角とは別のその色は、彼女の純粋な笑顔のように見えた。
僕の進むこの道は、曇り空へと繋がり僕が得ることの出来なかった輝かしい朝日から遠ざかっていく。
掴めればよかった。過ぎ去った輝かしいものを僕は振り返って眺めてしまう。僕は、あれを掴めなかったのだろうか。それとも、掴まなかっただけなのだろうか。眺めていても意味のない美しい風景も雨に濡れるこの身体も、僕には重いものだ。
全てを捨ててあの空へと向かっていこう。そう決意したはずの僕に、暖かい空が迫ってくる。
僕が知りたくないと振り切ったはずの暖かさ。知ってしまえば、手放したくないと思ってしまう暖かさ。それを、僕は払いきれずに包まれてしまう。
朝日が僕を包み込む。気づけば目の前の空は灰色ではなく白く染まっていた。
僕は知ってしまった。あの温もりを幸せだと感じたあの瞬間を。君の声を。もう、戻れやしない。灰色を目指していた僕が進む道は、夜の闇ではなく灰色の空ではなく、それが明けた輝かしい朝日に変わってしまう。
浴びたいと思っていたはずの小雨は止んだ。
僕が本当に浴びたかったもの。
僕は君の笑顔を浴びたい。

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