四季の檻 part3
六月 十二日 午後九時 天候 雨
「よぉ、久しぶりに連絡きたかと思ったらなに?行方不明者が多発してないかって、なにそれ」
そう言ってアジサイに入って来たのは貴崎拓人という刑事だった。わしと同い年の刑事で、いつの間にか連絡を取り、なにか情報が無いか聞くような仲になっていた。
「今度の依頼で少しね」全部を語ると守秘義務に関わるので言葉を濁した。
「こちらも言えることなんてないよ。守秘義務があるからね」
ニコニコしながら顔を覗いてくる。やっぱりこいつは苦手だ、こちらの思うことを見透かして答えてくる。ほんとに厄介な性格をしている貴崎の質問を無視して話を続ける。
「最近、火事があった現場付近で行方不明者が多発しているとか聞いたことないか」
「流石、秀悟。俺のことを無視して話を続けるのはお前だけだよ」
「じゃろうね、お前の話たいぎもん。よぉ言われんか。んで、どうなん」
長々と話をしていると貴崎のペースになるので、早く本題に入りたかった。
「絶対誰にも言うなよ。確かにここ最近行方不明者が多発している。でも、日本の一年間の行方不明者の数知ってる?約八万人だよ、それでも話聞くのか」
確かにそうだ、行方不明者だけに限れば年間約八万件の届け出が出されている。
しかし手掛かりが無い以上、話を聞くしかない。
「頼む、教えてくれ」静かに頭を下げた。
「うわ、秀悟って頭下げれんの」
冷やかす貴崎を無視して頭を下げ続けた。肩をぽんぽんと叩かれ「顔上げてくれよ、冗談だよ」と意地悪気な顔をしている貴崎を見た。
「行方不明者の捜索届けが増えたと感じたのは四ヶ月位前だったかな。でも上振れただけかもしれないし、お前が必要としている情報なのかは知らないよ」
「四ヶ月前から増えてきとるんか…」
近藤が夢を見だしたのは三ヶ月前からか…
関係が無いとは言えんな。
「その行方不明者達の住所がどこかに集中しとったりせんか」
「帰って調べてみないとはっきりした事は言えないが、そんなに集中してなかったと思うよ」
「このことで何か分かったことがあれば連絡してくれん?わしも何かあったら連絡するけん」
そう伝えると
「分かったよ」 と一言だけ残し帰っていった。
これでなにかしらの情報は入ってくるだろう。あとは出発の日までこちらで調べるとしよう。
そろそろ事務所に帰らないとマスターの視線が痛い。
「マスター、今日は世話になった」
そう伝えて帰ろうと階段を上がる途中で店のおくから
「貸し二つな」
この貸しはいったい、いくつまで増えていくのやら考えたくもなかった。
事務所に着き、すぐに風呂に入った。今日はいろいろな事があったので疲れた。ソファーに寝転ぶといつの間にか眠りについていた。
つづく
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