既踏峰1st album「なのに」インタビュー
既踏峰
1st album「なのに」
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日本語宅録ネオアコ、インディーポップの傑作。サイケ、ジャズ、民族音楽等の様々な音楽への愛をちりばめながらも、その音に乗る言葉は、1人の青年の少し情けない内省的な物語である。ひたすらに自分と向き合ったからこそ、誰もが共感できるような普遍的な作品になっているように思う。サルモンキーという1人の人間が触れてきた世界を、このアルバムから感じることができる。
可能なら是非、上のURLから音源を流しながら記事を読んでいただけると、より深く楽しんでいただけると思う。
今回の作品はどのようなものになっているのか。
以下、実際にサルモンキーさんに会って直接インタビューを行った。
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・)音楽を作りはじめたきっかけから、このアルバムができるまでをざっくりと教えてください。
サルモンキー(以下サ))2017年末に「なのに」の詩ができた。歌詞だけすごい前に出来て、でも当時は音楽にする術を知らなかった。だからずっと寝かせていたんですよ。でも曲にしたい、実力をつけようと「絵」を作り始めた。難産で半年くらいかかり、別のやつを作ろうと思って作業を開始したところ、「月」のコード進行を見つけ曲が一気に完成。次に絵もできた。そこからは「足跡」と「海辺」。ぼんぼこ曲が降りてきた。そこに「春風」ができて、曲をちゃんと配信しようと思ってバンドキャンプでシングルを作った。そこから、「なのに」が入れられるようなアルバムを作りたいと思って、アルバムを作成開始。2019の秋にめでたく完成。って感じですかね。
・)素晴らしい作品ができたということで。アルバムに収録されている曲について曲順で話していただきたい。まずは1曲目の「春風」。これはキャッチーな作品で、既踏峰を聴くならここからと提示できるような作品になっていると思います。
サ)そうですよね。曲順考える時、これは1番目だなって。曲の位置が一番初めに決まりました。サブスク時代、イントロが長いと飛ばされてしまう。誰かがこのアルバムを見つけた時に、飛ばされてしまわないように。爽やか、キャッチー、イントロも短いが全て揃っていて。
・)歌詞については、君がここにいなかったり、自分が景色に馴染めなかったりとか、1人の青年の切ない思いが一貫して歌われてるのかなと思いました。
サ)そうですね。歌詞に関しては背伸びをしないというのが一番あって。自分の素直な気持ちを歌詞として投げようと。寂しい思いをしたとか、そういう経験を。人間って経験したことしか話せなくて、思い出を振り返ってみたら寂しい思いばっかりだったなと。笑昔小説書いてた時も、自分が知らないことは本当に書けないなって思って。だから徹底的に自分の中にあるものを歌詞にしようと思って歌詞を作ってますね。
・)歌詞もこれ切ないですね。
サ)これはぶっちゃけ青春のことを歌ってるんですよ。歌詞に出てくる"君"というのは特定の誰かじゃなくて、青春のことなんですよ。青春って本当に風が吹くみたいに一瞬でビュって終わっちゃうじゃないですか。高校時代とかもつい最近のことのように思えるけど、もう戻れない。そういうことについてサラッと歌ってますね。でも色んな解釈ができるように書いてはいます。
・)2曲目は「夢模様」。イントロがポケモンの最初の街みたいなのどかで明るい感じがして。でも、歌詞についてはサルモンキーさんの高校から大学までくらいの事実に基づいた歌詞なのかなって思って。
サ)これは特定の何かへの意図があったわけではなくて。割とどうとでも取れるような歌詞を書いたつもりで。"いつか見た夢模様"から"今星が落ちる"の間に別の歌詞が入ってて。でもそれがあると意味が限定されちゃうからって思ってそこをバッサリ切って。そんで急に星が落ちることになって、そこでどうゆうことなんだ?って。その疑問から一人一人に歌詞について考えてほしかったというか。
・)行間を読む的な?
サ)色んな人に、色んな年代の人におおって思われるようにするにはこうだ!ってバシッて言ってしまうのは違うなと思って。だからそれぞれがおのおの解釈できるような歌詞にして。この曲なんかは特にそうです。
・)次は3曲目の「絵」。この曲は、"つと涙流れほつれた"の後の音がすごいですよね。
サ)あれは、あんまりよく覚えてないですけど。笑多分シマーリバーブとか使ったんじゃないですかね。それにパソコン上でディストーションとリバースリバーブをかけたのかな。
・)ああいう音はこのアルバムの聴きどころでもありますよね。
サ)この曲は本当にお気に入りで。言葉が歌メロにちゃんと乗ってるし。大サビのメロディも、良いなぁと。あとバッキングにスケールにない音が入ってて。でもそんなに気持ち悪くはない。ギリギリを攻めていけたのも面白い。あとギターの音もとても気に入ってて。クリーンの音も、ディストーションの音も、自分がギターに求めている理想の音なんですよ。だから、もう色んな人に聴いて頂きたい。
・)4曲目は「足跡」。これはミーターズの、声ネタを使ってるんですね。色々な音楽を聴くんですね。
サ)そうですね。ファンクの有名な曲に使われてるやつを。でも、そんなに聴いてるのかなぁ。本当知らない音楽はいくらでもあるし、掘れば掘るほど新しいものにぶつかって。多分音楽は死ぬまで聴き続けるんですけど、死ぬ直前になっても音楽をよく聴いたなとは思えないと思います。笑
・)音楽は沢山あって、今も生まれていて。僕らも作ってるくらいですし。
サ)ロックならなんでも知ってるという人も、実はレゲエの定番は知らなかったり。だからこそ音楽を聴くのは面白いと思うんですけど。どれだけ聴いても発見があるってのがすごいなと。この「足跡」も元々はバリの民族音楽のケチャをギター二本とベース一本とドラムとボーカルでやろうと思って。ギターを全部単音にして、ケチャのリズムに則って作っていたら歌が乗っけられなくて。そこでドラムのパターンとかリズムを色々いじってたらマイルスデイビスのオンザコーナーの雰囲気になって。そこからは歌メロもパッと出来てきて。
・)なるほど。
サ)あと、この曲は後半に実は鍵盤ハーモニカの音が入ってて。うるさくなるところで、そこに合わせてめちゃくちゃに弾いてるんですけど。あと、最後のキメのところでも鳴ってて。
♪曲を流す
・)鳴ってる!鳴ってますね。笑
サ)こういう、よくわからない、普通だったらやらないことをやろうとしたのがこの曲なんですよね。ふざけ倒そうと思って。ジャーマンニューウェーブっていう70年後半から80年頭くらいのポストパンク。深刻なようでふざけてる、そういうバンドが多くて。それが面白いと思ったので、そこから影響を受けてますね。
・)5曲目は「時代の陰」。
サ)基本的には具体的な歌詞は選ばないんですけど、この曲は抽象的じゃなく結構具体的な意味が自分の中でしっかりあって。時代の中で光が当たらない日陰者たちの痺れるような情熱についてを。
・)過去の音楽への愛とかですか?
サ)そうなんですよ。メジャーじゃない人たちの鋭い感性を。蝋が溶けて、火が消えても忘れないよという。宅録であったり、文学作品にでも言えますけど。
・)この曲のベース、グルーヴ感あって好きです。
サ)これ、打ち込みなんですよね。シンセベースで、圧があるんですよ。どうしても生のベースじゃ勝てない強さをだしてくれるので。サビの"蝋が溶けても忘れはしないよ"でベースは同じなのに雰囲気がガラッと変わるところも面白いと思ってます。
・)6曲目は「願い事」。アルバムの中ではポップな曲で。
サ)とりあえず好きなメロディを作ろうと思ってできたのがこの曲。好きなメロディに好きなギターを乗っけるというのがテーマで。ギターのハイが落ちるコーラスサウンド。ギターの音が、次の「海辺」と対になってて。こっちはくぐもってて、「海辺」はキラキラしてる。
・)なるほど。「願い事」から「海辺」にかけての2曲はポップな既踏峰が聴けるぞという感じで。
サ)そうですね。この曲も歌詞は少年時代のことを、うじうじと言ってるんですが。笑"簡単な言葉で片付けられた願い事集めて"からこの歌詞の全体像が出来たんですよね。サビのメロディもいいのが出来て。意外と既踏峰もいいメロディを書くんだぞと。笑
・)7曲目は「海辺」。これも良いメロディで。スピッツへの愛を感じます。
サ)そう、「願い事」と「海辺」は完全にスピッツで。スピッツは歌詞がエロいんですよ。渚って波と砂浜の境界のことをいうんですけど。この曲も"2人渚で波に揉まれ明日も忘れ混ざり合うの"と。
・)性的にも取れると。
サ)そうです。この曲はとことんスピッツを追求しました。バッキングのギターも三輪テツヤさんを意識して。
・)サビ前のフェイザーの音も良いですね。
サ)グヤトーンの80年代のフェイザーを使ってて。王道から外れたフェイザーで、独特のコンプ感がかかるやつ。あとマクソンの70年代後半の2つを使ってます。
・)8曲目は「虚航」。僕はこの曲すごい好きで。
サ)お!良かった。「時代の陰」と「虚航」は受け入れられのかってのが。アルバムならではの変わった曲で。なんか気持ち悪いというか、ストレンジな感じを出したくて。日本の民謡的な歌メロを使っているんですが、ギターポップにするのは面白くないのでそれをヒップホップのビートに乗せて。ハイハットの音をめちゃめちゃモタらせて、それにオートワウをかけることで不思議なビート感が生まれる。マスタリングの時にもテープエコーをマスターにかけたのですごいサイケ感が出たかなぁと。
・)オートワウが波を表してて、荒波に揉まれながらも歌うのが、"降りようわかってる何もかも終わりだって"という歌詞なのがすごい良いですね。サルモンキーさんを表してるというか。
サ)確かに。これはすごい素直ですよね。自分を出せたというか。
・)"何もかも終わりだって"って歌詞が素直って思えるってすごいですよ。笑
サ)そうですね。笑
・)9曲目、「通り雨」。
サ)この曲はやりたかったことが明確で。feltってバンドのオマージュを。モーリスディーバンクが弾くようなアルペジオを徹底的に意識して作ったんですよ。好きで好きでしょうがないので、felt。でも完全に同じことをやってもつまらないので、自分のジャガーを使って。
・)ジャガーのクリーントーンを聴きたいならこの曲を聴け!という感じで。
サ)そうですね。
・)ディーバンクはどのギター使ってるんですかね?
サ)多分ギブソンのES-335とかじゃないですかね。でもシングルコイルっぽさもある。実はディーバンクがどのギター使ってるかは知らないんです。笑映像も残ってなくて。一番好きなギタリストなのに使ってるギターは知らない。
・)次は10曲目の「月」。これは神秘的で美しい曲ですね。
サ)コード進行を思いついた時に、これは勝ったぞと。月のミステリアスさがコードで表現できたのが嬉しかったですね。
・)これも悲しさとかを歌ってるけど、最後の"月まで行けたなら"で少し希望がある。
サ)ですね。あと、この曲は最後にノイズが入ってて。ここがすごい大変でしたね。シンセにギターのマルチエフェクターをかけてるんですよ。シンセをめちゃくちゃに弾きつつ、色んな空間系をかましてガシャガシャと踏み替えてノイズを作って録音しました。遊び心で入れるというか。本当はなくても良い音というか、別に入れなくても良いものをあえて入れるっていう。再現できない二度と出せない音を。
・)11曲目のラストは「なのに」。これは歌詞が素晴らしい。
サ)これは歌詞ですね。歌詞。でもコード進行も気に入ってます。コードの名前とかはこれが何とかはあまり知らないんですけど。笑でも気持ちいい。
・)ですね。
サ)歌詞はもう聴いてみてくださいって感じですね。このアルバムの全ての曲が、この「なのに」に向かっています。そういう思い入れのある曲です。
・)あと後半の圧巻、掃除機みたいなギターの音。
サ)最後はグシャグシャになって終わるというのがあって。こう終わるべきだ、と自分は感じてまして。"君も僕もいるだけのに"、(どうしてこんなに苦しいんだろう)って。そういう意味のノイズです。うわあぁぁって。そのために、耳が痛くなるようなディストーションをかけて。という感じですね。曲解説はこんなところでしょうか。
・)はい。あと1つ個人的に気になったのですが、Twitterなどでしている、このアルバムを作るまでは死ねないのような意の発言はどこから来るんですか。
サ)生まれてきたからには、何も残せずに死にたく無い、何者にもなれないのはこわい。ぼんやり過ごしてるだけだと生きてる意味ないなって思ってて。じゃあ何者かになるためには何があるかっておれ音楽やってんじゃんと思って。そして、それをやってくうちにどんどん音楽が生きがいみたいになっていって。昔はおれはなんで生きてんだろうって気持ちでいっぱいだったのが、今は結構いろんなものに対して自信が出てきましたね。
・)大きなものを成し遂げたというか?
サ)成し遂げられましたね。今回いろんな人に音楽を聞いてもらえて自分がいる意味ってのが何となく実感できたっていうか。おれって生きててもいいんだなぁって。笑
・)いいんですよ。笑
サ)爪痕を残してやったぞというか。そういうのがあります。
・)分かりました、今日は1日ありがとうございました。
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既踏峰、渾身の1st album「なのに」。
是非聴いて楽しんで欲しい。
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