競争は負け犬がすることだ ピーター・ティール 「ゼロ・トゥ・ワン」 - Rank A
人は本能的に競争を好む。生まれたその時、競争はスタートだ。初めてハイハイした、立った、歩いたタイミング。全てが競争だ。
学校に入れば、そうした傾向は加速する。全てはテストの点数で、成績表の評点で評価される。スポーツでは記録だ。大学は偏差値で競争だ。会社は年収で競争だ。会社に入ってからも同期と先輩と後輩と競争だ。一番になれたものだけが全てを勝ち取れる。
こうした考えは今の世の中を正しく切り取っているように見える。
私もそう思っていた。しかし、ピーター・ティールは違った。シリコンバレーのマフィアの代表格、ペイパルマフィアのドンははっきりと確信を持って言った。
「競争は負け犬がやることだ」
どういうことなのか? だってそうだろう、現実の世界は競争に満ち溢れているじゃないか!
答えは本書が教えてくれる。
賛成する人がほとんどいない、大切な真実は何か?
本書の背景を少し説明したい。本書はスタンフォード大学においてピーター・ティールが受け持った1つの講義が元になっている。
知っての通り、スタンフォード大学はアメリカの西海岸にある世界を代表する大学で、シリコンバレーのお膝元だ。Google創業者二人はスタンフォードの博士課程の途中で起業した。
そういった土地柄を考えると、さらに天下のピーター・ティールの講義であることを考えると、受講生のほとんどは起業家か将来の起業家であることが分かる。
そうしたアメリカの将来を担う者たちに向けて、ピーター・ティールは誰もが思いもかけないことを立て続け様に言う。
一見、誰もがそんなわけはないと思う。しかし、よく考えると、よく調べると、時間が経つとともに、彼の言っていることが真実であることが分かってくる。
彼は言う。
「賛成する人がほとんどいない、大切な真実は何か?」
2016年に時を戻したい。アメリカの大統領選においてトランプが勝つと思っていた人はどれだけいただろうか?
当初トランプは明らかに色物の候補者だった。誰もがクリントンの勝利を確信し、疑う者はいなかった。
そう、ピーター・ティールを除いては。彼はトランプの選挙戦を支援し、当選後はテクノロジー関連のアドバイザーに就任した。
彼はまさに賛成する人がほとんどいない、大切な真実を掴んでいた。
競争は負け犬がやることだ。
この言葉の意味を理解するためには、競争と利益の関係を考える必要がある。
経済学に従えば、完全競争下における各参加者が受け取る利益は0になる。つまり、完全に公正な競争下で全ての情報格差がない状態であれば、市場の全ての参加者が得られる利益は0になるということだ。
例えば、コモディティを考えてみる。商品の差別化が全くないこの市場において唯一の差別化要素は価格である。つまり、競合他社に勝つには価格を下げる以外にない。
しかし、熾烈な価格競争をした結果何が待ち受けているか想像に難くないだろう。利益率は減少し、各プレーヤーが受け取る利益は限りなく低くなる。
そうした状況を避けようとし、各社で談合しカルテルを作り価格を高止まらせようとすると、今度は法律がこれを許してくれない。
市場は公正な取引を行わなければならないからだ。これには正当性があるだろう。市場が提供価値に見合わない割高な価格の製品やサービスを提供することは公益に資さないからだ。
だから、世の会社たちは価格以外の差別化を図ろうとする。ブランドイメージを高め、製品の質の良さをアピールし、他社よりも多機能なことを掲げる。
しかし、ティールに言わせれば、そんなことは負け犬のやることだ。
市場におけるもっとも利益を確保する方法は独占をすることなのだ。特定の市場を独占すれば、価格の決定権は売り手が保持できる。
そのため、十分な利益率が確保し続けることができるのだ。
独占禁止法があるから独占はなんてできっこないと考えるかもしれない。
でも少し待ってほしい。今の時価総額のトップ5の企業を考えればわかるじゃないか。Googleは中国を除く検索エンジンの90%以上のシェアを持っている。アマゾンは中国を除くECサイトで圧倒的なシェアを持っているし、マイクロソフトは言わずもがな、PC OSのシェアをほとんど独占している。
今、世界で最も価値がある企業のほとんどは独占企業だ。もちろん本人たちは規制をすり抜けるためにそんなことは言わない。しかし、明らかに彼らは市場を独占し、多くの利益を確保し、その資金を元に投資を繰り返し、帝国を築いているのだ。
ほとんどすべての会社は競合他社と毎日しのぎを削っている。わずかな差別化要素をまるで巨大な壁があるかのように語る。
彼らは気づいていないのだ。誰かと競争をしている時点で崖に向かって走るただの負け犬であることを。
競争しない? でもすぐに真似されるだろう?
答えはYESだ。今の時代に競争をせずに市場を独占することなんて不可能に思える。情報はすぐに拡散されるし、従業員も引き抜かれ情報は盗まれる。
このような状況であれば、普通は誰かに真似される前に市場を独占しようと考える。つまり先行者優位を使えということだ。
しかし、ここでも彼は普通とは違う。彼は言う。
ラストムーバーになれと。
ラストムーバーとは何か。
多くの市場で覇者となる企業は実は先駆者ではない。ネット企業の先駆者たるネットエスケープは2020年時点でネットの覇者ではなく、検索アルゴリズムの先駆者たるYahooもまた、検索業界の覇者ではない。
ラストムーバー、彼らは成長しつつある市場に最後に参加し、市場の全てを総取りする。彼らが市場の最後の参加者なわけではない。その市場を独占することによって、新規参入者が入れなくなるため、ラストムーバーとなるのだ。
どうすればラストムーバーになれるのだろうか。ティールによれば、本質的な競争優位性をもたらす、例えば技術や品質において、2番手と10倍は優れている必要があるという。
確かに、Googleのページランクアルゴリズムの性能やAmazonの品ぞろえを考えると2番手と10倍以上の差があったことが分かる。
そして彼は続ける。小さな市場をまずは独占しろと。
大きな市場は競争相手が多く、独占が困難である。結果として参加者総負けになる可能性もある。例えば、日本の○○Payなんかは最悪だ。競争が苛烈で、決済手数料は値下げ攻勢を続けている。典型的な参加者の利益を確保できない市場だ。
Amazonは当初の今のように全ての商品を対象にECを行っていたのではない。本を対象にそのビジネスをスタートさせた。まずは本の市場を独占したのだ。そこから、徐々にその規模を拡大していった。
既に独占している市場があり、十分な利益を得ているからこそ、ほかの市場に十分な投資が可能となった。これが他社との競争優位性となり、さらに独占を進めて行ったのだ。
中途半端な優位性で市場に出てはならない。すぐに真似され、独占する前にラストムーバーにやられる。ラストムーバーになるために必要なことは圧倒的な本質的な優位性を見つけることだ。
そもそも競合がすぐに真似できるようなものは本質的な優位性ではないのだ。
これは企業だけの話なのだろうか?
もちろん違う。
個人においても話は同じだ。皆が狙う大きな市場は独占しづらく、参加者の利益は消滅する。例えば、英語はその筆頭だろう。
誰でも参入でき、英語日本語話者はかなりの数がいる。代替的な機械翻訳技術もある。市場参加者の利益が確保できるとは思えない。
ではどうすればいいのか?考え方は一緒だ。
小さな市場において、本質的な優位性を10倍優れたものにすればいい。
企業に比べて個人が挑戦できる市場規模は相対的に小さくて済む。したがって、他の企業が他の人が挑戦しない小さな市場を独占を見つける事肝心だ。
人の真似がしづらいことに対し全てのリソースをかけて一点突破で取り組めば道は開けると思う。
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