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古き良き勧善懲悪の安心感。丁寧な作り込みを味わえる『HELLDIVERS 2』レビュー

『Back 4 Blood』や『Starship Troopers: Extermination』などへ個人的にあまりハマれなかったので少し心配していたが、『HELLDIVERS 2』はかなり楽しめているし、ポテンシャルをひしひしと感じている。

今作は昼夜の概念があり、夜はかなり暗いのと、単純に明るさの調整を間違えたため全体的にSSが暗い。申し訳ない

PSスタジオ制作ということもあり、海外産でありながら全体的に作り込みが深いところがまず目を引く。やはり丁寧に作られたゲームは遊ぼうという推進力が生まれるので良い。

伏せ状態の姿勢制御や滑らかに作られているなど節々の所作や細かいテクスチャにディテールが感じられる。最近こういったこだわりを感じられるゲームに触れていなかったので、余計に新鮮だ。

コマンド入力についても、良い意味でいちいち十字キーで入力させるのが面白い。ワンタップで支援要請とか、長押しで発射キー入力とかはわかりやすいけど、味気がないものの、ややこしくしすぎると『Squad』のようなミルシム系のややこしさがストレスになるので、バランスが難しいところだと考えていたところに良い解決策を見せてもらえたので、その点も気に入っている。

今作は普通にFFがある(航空支援にも)。逃げ遅れた仲間には悪いが民主主義の糧となってもらうのはお互い様である

忙しない現場であえて面倒なことをさせられるちょうど良いストレスが、うまく入力できた時の爽快感を生んでくれるわけだ。十字キー入力がちょうど良く、それ以上となるとかなりしんどいので、イライラしないギリギリのラインで楽しめる。これはぜひ他のゲームでも取り入れて欲しいポイントだ。

うまく言語化できないが、身体的な体験とゲーム体験の間を上手く突こうとする取り組みは、プレイステーションの良いところだなと改めて感じさせられた。

また、今作は「EDF」シリーズのようなバカゲーかと思いきや、FFで簡単に味方を死なせてしまったり、マガジンの概念が強くタクティカルリロードすると残弾がどんどん捨てられてしまい、すぐに弾薬不足になってしまったりするので、シビアなゲーム性を有している点も侮れない。

敵がコンピューターなのでどうしてもゲームが単調になってしまいやすい側面があるところを、プレイヤーの操作を程よく難しくすることで、駆け引きの機会や冷静な立ち回りを求められる瞬間を作り、それを乗り越える楽しさを上手く創出している。

難易度調整は事前の選択画面でどうとでもできるが、基本的に敵の種類や出現数で調整しているので、イージーモードでも意外と侮れないシーンはある。基本的にカチカチの敵が多いので、一体一体を確実に倒す意識が必要だし、同時に倒した時の爽快感がしっかり得られるのが良い。低難易度でも歯応えのある体験を提供して、シューティング初心者の心を掴んでくれそうなデザインである。

どうしようもなくデカくて強い敵を工夫しながら倒す感覚は、どことなくモンハンの匂いも漂う

ゲーム設計の面で欲を言えば、もう少し共闘感のある仕組みを取り入れて欲しかったのはある。敵が硬い分、必然的に背中を預けあいながら戦うのが最適解なのだが、ステージがオープンワールドに作られている分、散発的な動きになってしまいがちだ。

いっそのこと『L4D』のようにステージを一本道にしてしまって、意地でも共闘を強いる方が遊びごたえはあるように感じる。

とはいえ今時一本道も流行らないかもしれないし、オープンワールドでうまく共闘できる仕組みを作れた方がより盛り上がるのは間違いないが。

プレイ前は『スターシップ・トゥルーパーズ』的な戦闘体験が主軸になると思っていたのだが、いざプレイしてみると『ターミネーター』シリーズを穂仏とさせる、機械軍との大戦争も味わえたのは意外だった。

オートマトンと呼ばれる殺人マシンの軍勢を相手に死闘を繰り広げる体験は、ムシたちとのそれとは異なる緊張感がある。白兵戦が主体とはいえ、ムシたちよりもはるかに多くの飛び道具を使ってくるので、距離や遮蔽物を駆使した銃撃戦が求められる。単にビジュアルが違うだけでなく、戦い方まで変えざるを得ないことが別のゲームを遊んでいるような体験を与え、一筋縄では飽きさせてくれない。

民主主義の名の下に、一方的な効果作戦で侵略戦争を繰り広げるブラックジョークは『スターシップ・トゥルーパーズ』の系譜であるし、無機質で「赤い」機械軍との戦いは、まさしく『ターミネーター』で見たことがあるそれだ。

80年代から90年代にかけて華開いた、民主主義は絶対に勝つという(極めて短絡的な)ナラティブに身を預けられるという点は、複雑なグローバル時代を生きる現代人にとって悪魔的な魅力を覚える。

帰還は専用の輸送船から。これに乗り遅れてもミッション成功にはなるが、貰える経験値は少なくなる。イヤでも4人全員での帰還を目指せる嬉しい仕様である。

同時に、これは勧善懲悪的な考え方だけでは生きていけないという現実があってこそのコメディでもあるので、『HELLDIVERS 2』のようなゲームが体現する「民主主義への過信」がコメディとして広く受け入れられていることに、世界の成熟ぶりを見出したい気持ちにもなる。

難しい世界に生きている自覚があるからこそ、輝く笑いがそこにはある。この点は『Fallout』シリーズなどにも同様に見られるコメディ要素とも取れるだろう。ゲームを通じて高度な文化活動に参画しているような体験を与えてくれるのも、今作の魅力かもしれない。

『HELLDIVERS 2』の高いレベルでデザインされたゲーム体験は、往年のSF映画が伝えてきた戦後民主主義世界への警鐘と、ひとさじのノスタルジーを感じさせてくれる余裕を、プレイヤーに与えるのだ。

結局僕が『Back 4 Blood』や『Starship Troopers: Extermination』にハマれなかったのも、丁寧なゲーム体験をこれらの作品から感じられなかったことに原因があるのかもしれない。質の高いものづくりは、甘く豊かな没頭や回想を促すために不可欠なピースなのだろう。

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