見出し画像

真夜中の狐火 2022/09/29

1つの提灯だけが、僕の行く末を照らす。
冷えた体を温めているような気分になれる上着は、冷たい風を受け続けて結局は体温が下がるばかりだ。
昼間に見つめた曼珠沙華の花は、真夜中の暗さで真っ黒に染っている。提灯を傍で掲げれば、曼珠沙華は燃えるように紅く、橙に染まった。

寄り道を繰り返しては元通りの道へ帰り着く。
人々が言う中の平日で、真夜中のこの道には滅多に光が差さない。光が通るほどの幅すらも無いのだから。
草を踏みつぶしながら、人間の手が加わらない荒れた道を歩く。
自由に生え散らかされた草木達は、傍観者からすれば素晴らしい自然だとしても、この道を歩く僕達から言わせてみればそれは惨状。
人間がそれとなく作ったであろう石階段の所々には苔が生え、僕らが掃除するには相当な労働時間が必要だろう。
動かぬ狛狐の台にはツタ植物が独自の道を作り出して台を束縛している。
また時間が経ったらその道を壊そうか。そう自分に投げかけては了承する。

提灯の火が少しずつ暗くなっているのは、何故だろうか。
そんなどうしようも無い質問を誰に問うわけでもなく口に出す。
歩み続けた足をまた1歩踏み出して、朱色の建造物、通称鳥居という1つの門の様なものを潜り抜ける。
その先にも、またその先にも鳥居は並んでいる。
また、その道を歩き続けた先にある小さな小屋の戸を開ければ、人間が何故か作り出した神がその小屋の中に佇んでいる。

─なぜ、人間は神を作り出したのか。

…そんな神の無邪気な問いを解決するための使い。
人間が言っている「神使」やら「眷族」などと呼ばれているのが僕ら。
人体の中に僕らの魂を注いで、完成したのが僕らの持っている体だ。
何故か完璧なものは作り出せず、下手をすると耳と尻尾がひょっこりと顔を出すので、気をつけなければならない。

だが、人間から見ると普通の人間に見えるらしい。普通に僕に話しかけてきて友達、というものになった人間がちらほら居る。
人類との関係性は、この謎を解明するためには必要不可欠なので、大切にしないといけない。

そして、疑問を聞いても違和感ないように、時々哲学的質問を投げる、というのは受ける人には受けるが、嫌な人には真っ平御免らしい。
だが、僕がそういう哲学的な物事を考えるのがそれとなく性にあっていたため、少しでも話を弾ませることはできた。

それでもまだ、人間がなぜ神を作ろうと思ったのか、作り出してしまったのかという根元までは掘り下げられない。
それに、そんな質問ばかり投げると恐らく人間に嫌われるだろう。
あと変な面を見せると嫌われる。実際数人には嫌われた。

…これは唐突だし他愛もない話だが、人間の感情とはかなり複雑で理解に苦しむものだ。
大体この話を聞くのは人間だから、あまり言いすぎると何か言われることがあるが、今はどうでもいいことにしてくれ。
人間は、相手に何かを“する”ことは好きなのだが、相手に何かを“される”のは好きでないことが多い。
逆に、相手に求めるのに自分に求められると困り果てるのもある。
例えば、相手に自分の好きな事などを紹介するのが好きだとして、
相手が自分に好きな事を紹介されるのは別に、なんて言う人間もいる。
そして、愛情や意見は相手に求めるのに、
相手にそれを求められると、その辺のものを拾い集めたような言葉でその場を凌ぐのもいる。
…あとは、人間のする話などは何故その話をするのかよく分からないものが多い。
愛や恋の話、とかは話の種としてよく撒かれているだろう。
そのような感情がよく分からない僕は適当にはぐらかすが、その話をして何が満たされるのだろうかと気になってしまうのが僕だ。
…多分、これが人間に少し嫌われる理由でもあるだろう。人間の価値観が理解できないのだ。

…ああ、少し話をし過ぎた。
今日は別に神に報告するような面白い出来事も無かったのだ。少し毛繕いをしたらあとは眠りに落ちてまた人間と関わるだけでいい、からこそ暇だったのだ。暇を埋めるためにただの話をしただけさ。

ふっと息をふきかけて提灯の火を消す。
真っ暗な世界だ。上を見上げると木々の隙間から星が瞬いている。
…どうでもいいことだが、僕は耳や尻尾を出してた方が気が楽で。そのまま眠ることが多いのだけれども、偶に朝にここの人気のない神社へ来る参拝客、というものが居るので良く神の居る小屋の一角を借りて眠っている。

だから、神にも他愛のない話をする。
もうそろそろ狛狐の所を掃除しないといけない、やら
まだ全然疑問を解決できてないこと、やら。
僕が眠くなるまで神にずっと話し続けた。
実は僕は人間や物に話しかけ続けるのが好きなのだ。
だからそれとなく微笑んで手を様々な方向に動かしながら人間に話をすると、大抵の人々はそれ相応の笑みを返しながら会話を続けてくれる。

…そういえば最近は人間界にも馴染んできた。
さっき言ったような感じで、人間ともよく関われるようになったし、自分も人間のように生きれるようになった。
知らないものと関わるのは面白いことだと気づいたり。

…眠くなってきた
…眠くなって眠っても、目覚めるのが僕達。
眠くなって眠ったら、いつかは目覚めないのが人間。
…眠くなってきたから、おやすみなさいと神に声をかけて深呼吸を挟んだ。


“それ”を自覚した時には、僕は孤独の狐だったことに気付かされるのだろうか


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?