4章【会社としてのAppleの強み】
4-1: 強烈なリーダーシップで上下間交流を排除
ジョブズの集中型のシンプル哲学は会社経営においても発揮された。その中核には、エリート主義に基づく強烈なリーダーシップがある。
プライドが高く、ほぼ常にカッカしている激情家のジョブズにとってそれは最も得意とすることだったかもしれない。
一般的にジョブズとは最も自分のボスにしたくないタイプだろう。気に食わなければすぐに部下をクビにするし、人の成果を横取りするし、気分屋で方針をコロコロ変える。
ただ、素晴らしいプロダクトを生み出し続けることで、幹部や部下を何とか引きとどめてきたというのが実情だろう。
だからこそ1980年代中盤以降、マッキントッシュの売り上げ不振が起こったとたん、ジョブズは自身が築いたApple社から追放されたのだ。それから数年を経て再びAppleに復職できたのも、何より映画会社Pixerでディジタルムービー革命を起こした成果があってのことだった。
ジョブズは非情で明確な決断力を武器に、エリート主義に基づいた強烈なリーダーシップを発揮した。おかげでAppleは会社としてもシンプルで生産効率の高い組織になっていった。
彼は社員を1軍・2軍・3軍に分けるばかりか
その間の交流を禁じた。
一流のエンジニアにとって最もムダなことは、それ以下の者と働くことだとジョブズは考えていた。
自分と同等の知性がある人だと話がポンポン進むというのは、多くの人にも身に覚えがあることだろう。だが劣る相手だと、1つ1つ説明せねばならない。
さらに2軍・半端なインテリの場合、的外れな反論をしたり事態を無駄に複雑化したりするので、その対応に時間を取られる。そして彼らの多くは結局、態度を変えない。
賢い人なら直観で分かることも、そうでない人たちには議論や説明が必要になる。そのため1軍・2軍・3軍と社員を完全に分断することは、会社の生産性の向上に大いに役立つ。
もちろん、その分け方は身分や学歴ではなく、実力至上主義によるものでなければならない。Appleもこの点から社内階層を築いていたはずである。
4-2: 内部崩壊を防ぐ「Appleは1つ」という考え方
伝記『スティーブ・ジョブズ』に見るAppleの優れた点はもう1つ、いわゆる共食いを恐れなかったことがある。
Appleはジョブズの会社というより
彼の分身に近い存在だった。
そのため、彼はAppleが1つの組織としてもうかっていればいいと考えていた。つまり、全体利益のためなら一部門がつぶれてもいいということだ。
伝記ではそれと対照的な悪例として日本のSONYが挙げられている。
SONYにはAppleに対抗できるほど、家電・音楽・映画などの幅広い分野があり、その統合システム・つまりSONY王国を造れる可能性は十分にあった。だが、SONYの社内には内部抗争があり、新部門ができると旧部門から足を引っ張られるということがあった。
もし21世紀初頭のAppleがSONYであればiPhoneの制作は絶対に許可されなかっただろう。なぜならその前にiPodという大ヒット商品があり、iPhoneの需要がそれを奪う恐れがあるからだ。
だが、全体利益を考えるAppleはiPhoneを発売し、それはマックやiPodよりも革命的な製品となった。
そしてこの経営方針の核にも、ただ素晴らしい製品を造りたいだけというジョブズのシンプルな哲学があるだろう。
ハリウッドの”walk of fame”にも、「金持ちの墓に入るよりも、素晴らしいものを造ったことが大切だ」という彼のメッセージが刻まれている。
一方でせっかくいい技術や幅広い分野を持ちながら、足の引っ張り合いで内部崩壊するSONYの姿には、現代の日本経済や文化全般にも通じるものを感じる。
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