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『LIFESPAN(ライフスパン): 老いなき世界』書評:頭がガ~ンとなった3つの要点≪パート①

私にとって本書の要点は3つ。

1つ目は、老化が病気であることを認識することの大切さ。2つ目は老化は改善できるが克服することはできないということ。3つ目は、人類の長寿化は恩恵よりも弊害の方が大きいのではないかという懸念だ。

そして本書は、死や終わりを否定するような本質論にまで発展するものではない。老化は病気であるという最大の訴えを聞けば、多くの人はそこに不老不死を結びつけるだろう。邦題の“老いなき世界”という副題もまた、その誤解を生む大きな要因である。

しかし原題の『LIFESPAN』が表すよう、著者シンクレアはライフスパン――つまり人が病気にかからず幸せに過ごせる健康寿命――をできるだけ伸ばすことを至上の目的にしている。

本書の随所に出ているが、私人としての彼は家族を愛し、できるだけ長く一緒に過ごしたいと願う心優しい平凡な男である。

それでも私にとって、世界観・人生観を根底からひっくり返される良き読書体験になった。ガブリエルの『なぜ世界は存在しないのか』やブレグマンの『隷属なき道』に匹敵する最高の読後感を得た。

本を読む前と読んだ後では、自分のちっぽけな毎日も壮大な人類史もまるで違って見える。本書はそういった真正の読書価値を充分に与えてくれる。要点を軸に1つずつ振り返ってみたい。

忌まわしきあらゆる病の大元:老化

要点の1つ目、老化は病気である。私もそうだがこのシンプルでいて衝撃的な本書の訴えに頭がガ~ンとなった人は数多くいるだろう。

何よりもこの認識がないために、人の人生から社会、人類の歴史までずっとまちがった方向に向かっていたのではないか。そこまで思わせる力が、本書にはある。

多くの人は老化を人類の宿命だと思っている。社会も国も同じだ。しかし老化を忌まわしき万病の大元と捉えれば、人の在り方も社会の方向性も変わってくる。

原題の副題「私たちはなぜ年を取り、なぜそうならねばならないのか」という言葉には、老化に対するシンクレアの怒りも伝わってくる。

老化が崇高な宿命でも何でもない、それはただの理不尽極まる長期的な苦痛期間なのだ。

そう思えれば人は若いうちからその戦いの準備――つまりは長寿法――を始めておくだろう。ありがたいことに本書にはその数多くの推奨例がある。中でも比較的容易で、節約にもなる“間欠的断食”には大いに感心させられた。

国はガンやアルツハイマーなどの対処療法研究よりも老化――あらゆる病の根っこにあるこの元凶――の研究に人と財をつぎこむことだろう。研究者であるシンクレアはやはりこの点を強く欲している。

iPS細胞の山中教授が最近、予算をめぐって国と争っているのも、病の根治研究の大切さへの無理解が引き金になっている点が大きい。(パート2につづく)

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