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性善説に基づけばベーシックインカムは国家と資本を克服する~『力と交換様式』書評➁

3:こどもの純粋交換に見る救い

柄谷行人が言う資本=ネーション=国家を克服する交換様式Dについて、僕が考えるそれはこどもが行う純粋な交換になる。

それは友愛に基づく主観的な交換である。お互いの感性や感情や価値観などで成立する交換であり、無条件に相手に与えるだけの交換もふくむ。この点で半強制的な返礼をはさむAの贈与とは異なる。

違反は略奪と損得勘定だけだ。力で独占すること。そして貨幣のような客観基準で損得を明確にすることは等しく純粋交換の良さを消し去る。


こどもの頃に友達と交換ごっこをした人は多いだろう。

僕はキン肉マン消しゴム、いわゆる「キン消し」が流行った世代で、多くの友達とガチャ当てしたキン肉マンのキャラクターを交換したものだ。

最も思い出に残るのは遠い他県から越してきた子との交換で、彼は僕らの地域のガチャにはない珍しいキャラばかり持っていたので大勢のこどもの羨望の的になった。

ときには1個対10個の交換もあったほどで、これは遠隔地貿易を利用した暴利という意味で交換様式Cになるだろう(^^)/。

そしてその子がまた元居た他県に引っ越すことが決まったときサプライズがあった。彼が持っていたキン消しをすべてタダで友達に分け与えたのだ。また他県に帰れば同じものが手に入ることもあっただろうが、それは明らかに友愛感情がもたらしたものだった。

その子と僕らはもう二度と会うことがないので返礼の義務は一切なく、その意味でこれは交換様式A・B・Cすべてを消し去る交換様式Dの1つだ

こういう心躍る交換は、多くの人がこども時代に純粋に自然と行ってきたものである。

4:BIによって広まるDの愛

序文で書いたよう僕は交換様式Dの入口に
ベーシックインカム(BI)を見る。

ではBIはDとどう関わるのか。最低限の生活費だけの限定的施行ではあるが、BIは国家が無条件で国民に給付金を与えることだ。

国民にはその返済義務はなく、さらに最低限の生活を送る限り労働義務からも解放される。

それでも消費税や固定資産税などさまざまな納税義務はあるため、国家との交換様式Bから解放されたワケではなく、労働者ではなくなっても消費する必要があるため交換様式Cとも関わらねばならない。

一般論としても、BIは国家と資本に大きく依存するためそれらの強化につながると見られていて、『力と交換様式』の柄谷の立場もそれに重なる。

だが、それは人類の性悪説に基づく悲観論に違いない。


トマ・ピケティらと同じくBIを推進する歴史家のルトガー・ブレグマンは『Humankind』という著作で、人類の性悪説が多くの歴史的な出来事を通じて、いかに虚偽的に広められてきたのかを明らかにしている。

性善説に立つと、BIが実現されれば、多くの人はその無償の奉仕を自発的に広めようとするだろう。最低限の生活に限ったレベルとはいえ、国の無償の給付に対し、自らも同じような交換・交流を欲するようになるだろう。

またBIによって生活的な危機感がなくなれば、人はより人に優しくなり性善説に近づく。また生活とは金銭と国家に直結するものなので、生活色が薄まればBとCも薄まる。

多くの人は楽観論と言うだろうが、
BIによって悪や怠惰に囚われるのは
一部のソシオパスや純粋アーティスト
だけで全体的に見れば必ず好転する。

僕はブレグマンのようにこれこそが新たな時代のリアリズムだと捉えている。つまりBIによって交換様式Dという愛が広まるのだ。

ただし純粋交換が充分に広まらないうちに国家が強引な規制をかければ、また圧力への自発的な忖度の元でBとCが帰って来るはずだ。それでもこのジグザグ走行の末に、いずれ資本=ネーション=国家は崩れると僕は見る。

5:社会主義バイアスを広げたロシア

僕は、今後の人類の唯一の希望が、
ベーシックインカム(BI)を起点とした社会民主主義にあると思う。
そしてBIが交換様式Dの入口となり、
やがてそれは真正のD・純粋交換に移行すると見ている。

『力と交換様式』の中、柄谷行人はロシア革命の失敗を例に社会民主主義の限界を指摘している。

が、ロシア革命は翌年の内戦で計1500万人が死んだことにも表れているよう、その実態は軍事クーデターであり、権力闘争の色合いが濃い。社会主義革命とは空虚な大義名分だったのだ。その後、スターリンが出てきて専制国家になったことにも革命のインチキぶりが表れている。

国家が社会民主主義に最も近づいた例は、アメリカの大恐慌後の1930年代、または60年代から70年代になるだろう。

皮肉にもニクソンの時代だったが、アメリカの70年代には低所得者層にだけ無条件給付する『負の所得税』が議会を通過しそうになった。4つのアメリカの都市で社会実験も行われたほどだ。参照WIKI

だが、実現には至っていない。
原因はさまざまあるが、
最たるものは社会主義バイアスだと僕は見る。
それはロシアが作り出したものだ。

アメリカの30年代はロシア革命の残酷さの余韻が残る時代で、60年代はソ連の全体主義体制の異様さが際立っていた時代。だからこそ、アメリカは社会主義に近づかなかったのだ。

ロシアは常に社会主義・共産主義を権力体制の大義名分にしていたため国家権力の残酷さとの混同が起こり、それが今にも続く「社会主義は過激で危険な思想だ」と言うバイアスにつながったと言える。

アメリカのコメディアン、ジョン・スチュワートのAppteTVの報道コメディ番組「The Problem with Jon Stewart」では、「SOCIALISM!」と彼が叫ぶとカミナリが落ちるときの派手な効果音が流れる場面がある。

つまり未だに多くのアメリカ人にとって社会主義は恐怖を引き起こすものなのだ。

パート3につづく


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