見出し画像

『文春マサクリ』1-1:エロ雑誌が報じる週刊文春テロ

あらすじ

2023年、週刊文春・編集部が
大量殺りくテロ(マサクリ)の舞台になり
犯人は闇に消える。
三流週刊誌のライター・青木亘(わたる)は
自身の事件記事によって犯人の疑いがかけられながら
ペンで世の中に立ち向かう。
そうして真相は突然、最も近いところから現れる。

1-1:エロ雑誌が報じる週刊文春テロ

【2023年8月20日】

驚がくのひと言である。

一記者として、これほどの使命感と緊迫感をもって記事を書き進めることは、おそらく今後二度とないだろう。私はまだ30歳の駆け出しライターだが、そう断言できる。

そして、その思い入れの強さには、私がこの記事を担当した“ある特別な理由”も大きく関わっている。

改めて書くまでもないが、2023年8月16日『週刊文春』が大量殺りくテロに見舞われた。2020年のコロナウイルスによるパンデミック以来、これほど連日連夜に渡ってマスコミに報道されたニュースはない。

週刊文春とは今や日本を代表するマスメディアだ。半世紀以上に渡って芸能スキャンダルから政界の闇まで恐れ知らずに暴き続けてきた雑誌である。

『文春砲』と呼ばれるその圧倒的な影響力は、いつしかときの内閣を脅かすまでになった。一週刊誌ながら、文春の歩みは近年の日本の歴史を動かしてきたといっても過言ではない。

その週刊文春・編集部が大量殺りくテロの舞台になったのだ。この文春テロを受け、文藝春秋社はもちろん他の週刊誌を抱える出版社も現在、一斉に編集部を閉鎖している。

また、それらのオフィス周辺では対テロ用の特別機動隊がオリンピック競技会場なみの厳戒態勢を敷いている。

そんな緊急事態の最中、3つの大手週刊誌は早くも反撃を開始した。多くの記者を亡くした文春のあだ討ちとばかりに、リモートワークをフル回転させ、事件の3日後にそろって臨時特別号を発行したのだ。

報道の自由を脅かす言論テロに屈しない姿勢は、まさに称賛に値する。

一方で、私は一体、なぜこうして文春テロの記事を書いているのだろう。

ご存じだろうか。あなたが今お手持ちの雑誌は、第一にエロを売りにした関東エリア限定発行のゴシップ誌だ。

芸能人の不倫ネタがあれば、その愛用ホテルに飛び込み取材し、その使い勝手の良さを紹介するような情報誌である。

なぜ、そんなエロ雑誌が、日本の100年の事件史に刻まれるだろうこの一大テロ事件を報じているのだろう。そもそもそんな資格はないハズである。

普段、こんなことを書こうものなら一発でクビになる所だが、今の私にはそんな心配はない。何なら、わが編集長よりヒドイ人間はこの世に1人もいないとだって平然と書ける。それもまた“ある特別な理由”があってのことだ。

もう一度、言おう。当雑誌は完全なる三流週刊誌だ。実際、わが出版社に対する警視庁の対応はたった1つ。近所の交番の巡査が送ってきた「いろいろと気をつけてください」という携帯からのショートメールだけだった。

しかしだ。

そんな週刊誌であるにも関わらず、ご覧のように事件後わずか4日でこのような臨時特別号を出してこの文春テロを特集することになった。つまり、それもまた“ある特別な理由”があってのことなのである。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?