映画「アンダーグラウンド」感想
映画「アンダーグラウンド」の舞台は1940年代~90年代のユーゴスラヴィア。
今の若い人は学校でユーゴスラヴィアのこと教わるんですかね? もう地図にはない国で、現在はスロヴェニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、セルビア、モンテネグロ、コソヴォ、北マケドニアに分裂しています。
ストーリーを大まかに説明すると……
1941年、ユーゴスラヴィアの首都ベオグラードは、ナチスの空爆で破壊された。混乱の中、裏稼業でボロ儲けをしているマルコとクロ。クロはナチスの将校を銃撃し、将校の恋人ナタリアを誘拐する。
ナタリアと結婚しようとするクロ。しかしマルコはクロを地下の武器工場に押し込め、
「まだ地上ではナチスとの戦いが続いている」
とウソをついて地下から出さないようにし、ナタリアを自分のものにしてしまう。
第二次世界大戦終結後、ユーゴスラヴィア政府の幹部となったマルコ。クロを戦争で死んだ英雄に仕立て上げ、その逸話が映画化されることになる。
地上に出てきたクロは映画の撮影を現実と勘違いし、撮影現場でナチスの将校役の男を銃殺する。
「これこそがリアルだ!」
と大喜びする監督……
うーん、難しいなぁ。実際はクロの奥さんと息子や、ナタリアの弟やマルコの弟など、数え切れないほどの登場人物が出てくるし、それ以上に動物が出てくるし、エピソードも盛り沢山。
この映画に印象が最も近いのは「ゲルニカ」だと思う。スペインの町ゲルニカへの爆撃に対する憤りから生まれたピカソの絵。戦争を描いていながら全然リアルじゃない。
人間や動物はデフォルメされ過ぎているし、ぱっと見でそれが何なのか判断出来ない抽象的な線も多い。それでも燃え上がる町の人々の、苦しみや混乱がはっきりと伝わってくる。
1990年代に入り、ユーゴスラヴィアでは内戦が勃発。再び破壊された町でマルコとナタリアは焼死する。クロは井戸に飛び込み、深い水路をたどって、不思議な水辺の土地に辿り着く。
そこには何十年も前にお産で亡くなったクロの奥さんが待っていた。行方不明だった息子も、息子のお嫁さんも、マルコやナタリアも元気で、車椅子に乗っていたナタリアの弟は歩けるようになっており、ナタリアとダンスを始める。
ここは天国なんだ。そう気付いた途端、私の目から涙がボロボロこぼれた。死ぬことでしか辿り着けない理想郷。ここでしか、ユーゴスラヴィアの人々は仲良く暮らすことが出来ない。
激しいブラスバンドの音楽に合わせてみなが踊り狂う中、どもりだったマルコの弟がくるりと振り向き、雄弁に語り出す。
「苦痛と悲しみと喜びなしには、子供たちにこう語りかけられない。昔、あるところに国があったと」
何年か前にラジオで流れたこの映画のテーマ曲が気になって、タイトルをメモしておいたのです。
ある時この「アンダーグラウンド」を含めたエミール・クストリッツァ監督特集上映をやると知り、
「どんな話か知らないけど、まあミュージック・ビデオを見るような気持ちで」
と行ってみた。そうしたらまあ、久々に「とんでもないもの見ちまった!」って感じでした。
ウソと狂気と真実が渾然一体となって炸裂する、強烈な物語。見て損はないと思います。