海外事例研究 | スペイン バルセロナ:「オーバーツーリズム」に対するデータドリブンな原因究明及び対策
はじめに
昨今、日本国内では様々な自治体が、オーバーツーリズムの問題に直面しています。
オーバーツーリズムは、特定の観光地にキャパシティ以上の観光客が訪問することで生じる問題で、地域の住民生活に負の影響をもたらし、観光客の満足度を低下させることに繋がります。
例えば、観光地として人気の高い京都市では、市バスの混雑や、宿泊施設の乱立などに伴い、地域住民の生活に悪影響を及ぼしています。
本記事では、データを活用して、オーバーツーリズムの問題に対処するスペイン、バルセロナ市での事例をご紹介します。
背景
スペイン、バルセロナ市では、観光業がGDPの15.0%を、雇用の9.0%を占めており、非常に重要な産業となっています。
一方で、2017年のバルセロナ市民を対象に行われたアンケート調査では、市民の5人に1人が、「観光業」を「バルセロナ市が抱える重要な課題」と回答しています。
バルセロナ市民が、観光業に対して不快感を持つ主な要因として、①観光客による夜間の騒音や、②観光スポット付近での交通渋滞や公共交通における混雑、③法的認可を受けていない違法な宿泊施設の乱立、④海岸付近での環境汚染等が挙げられます。
バルセロナ市は、同調査結果を踏まえて、オーバーツーリズムやそれに伴う課題を解決すべく、人流データや施設情報を活用した原因究明や対応策の検討に取り組んでいます。
データを用いた現状分析
バルセロナ市は、データやアンケート調査などを用いたエビデンスに基づく政策決定を重視しています。
観光分野では、データを活用して現状分析を行い、観光地の需要予測や観光客の混雑緩和に取り組んでいます。
図2は、X社(元Twitter社)が収集した位置情報から取得した観光客(ユーザー)の移動経路を示しています。
図中の各線が一人一人の移動経路を表しており、局所的に観光客が集中していることが確認できます。
図2の観光客の移動経路のデータと、図3が示す観光客のバルセロナ市内における1日の周遊状況を示すデータ、及び図4が示す市街地の施設情報や宿泊施設の分布を組み合わせることで、①滞在理由や、②移動手段、③季節毎の違い、④最も人気のある旅程などを定量的に分析しています。
データドリブンな制度設計
これらの分析に基づき、バルセロナ市は、観光地や宿泊施設の一極集中等の都市の構造的問題を明らかにし、観光業における宿泊施設及び公共交通における課題解決の方針を制定しました。
1. バルセロナ市が制定したゾーンにおける宿泊施設開業の推進及び制限
バルセロナ市は、違法な宿泊施設を摘発し、観光データに基づく観光用アパートホテルの戸数を9,600戸に制限しました。
更に、観光客の宿泊施設の分散を行うために、図5が示すエリアを設定し、ホテルの立地規制や施設の拡張を推進しています。
エリア1…全ての宿泊施設の新規立地が規制
エリア2…既存の施設が閉鎖した際、閉鎖した施設と同数の部屋数の施設の立地が可能
エリア3…一定の条件下で、新たな施設の建設及び既存施設の拡張が可能。
エリア4…再開発区域。観光用アパート型ホテルの新規立地不可。
2. 観光客が集中する地域外を運行するバス及び観光ツアーの導入
観光客の局地的集中を緩和し、目的地を分散するために、バルセロナ市は、新たな地域交通バスルートの導入を行っています。
更に、データから得られた情報をもとに、観光客が集中する場所及び時間を避けた観光ツアーの提供が可能になり、現在その魅力をバルセロナ市の観光局を中心に広めています。
バルセロナ市では、これらの制度設計を通じて、データに基づいた現状分析及びオーバーツーリズム問題の対策に取り組んでいます。
また、バルセロナ市は、これらのデータを市民や民間企業に共有し、制度設計の透明性を保ち、民間企業との協力のもと、「サステイナブルな観光」の実現を目指しています。
最後に
ここまでご覧いただきありがとうございました。
本記事では、スペイン、バルセロナ市における、データを活用した観光業におけるオーバーツーリズムの現状及び原因把握と制度設計について、ご紹介しました。
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