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【画廊探訪 No.130】砂に描かれる悠久の流れ―― 湊 七雄「ウォーター・ガーデン」に寄せて――

砂に描かれる悠久の流れ
――― 湊 七雄「ウォーター・ガーデン」(MUSEE F)に寄せて―――
襾漫敏彦
 表参道画廊は、今は亡き鷹見明彦氏と縁(ゆかり)の深い所である。彼と私は同人誌『砂州』の同人であったが、その『砂州』の題字を揮毫してくれたのが小川国夫氏である。その甥の小川佳夫氏のここでの個展に、鷹見氏に連れてこられたことがある。湊七雄氏の「ウォーター・ガーデン」に、どこか昔の事を思い返させるものがあった。

 湊七雄氏は、版画を主たる表現メディアとする作家である。今回はカーボランダムを使ったコラグラフの版画作品が中心となっている。コラグラフは、物質を積み重ねていくことで、版を組み上げていく手法であるが、異質な図像を重ねることで、映画のカットのように、その段差を投げかけて、想像力を喚起することもできる手法である。
 湊氏は、カーボランダムという同質な素材を用いることで、厚みや密度、粘性、さらには粒子の大きさを使いわけることで、筆のタッチによる描きわけのような表現を可能にしている。それは演奏においてテンポや強弱に託すもののようでもあるし、河口の砂州に描き出された模様のようでもある。

 水の流れに運ばれた小さな粒子は、河口に積り、表に水の動きを記憶する様に、模様を刻印していく。そこにあるもの、変わらずにあるかのように見えるもの、民俗と風景は具体的なひとつひとつの人間関係の積み重ねや、天と地の変動という地球の生命の拍動に支えられた動くものがあるからこそ、変わらぬものでもあるのだ。
 眼の前にある姿、それは過去という紙にプレスされた今。故郷より引き離されて抽象となった名前を失った粒子を、湊氏は、様々な思いの流れにのせて版に重ねてゆく。それをプレスという重力によって時をとめたとき、具象的な表情に回帰していく。

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湊さんのオフィシャルサイトです。充実したサイトです。


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