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【画廊探訪 No.127】空間の変容(Metamorphose)が導く進歩からの脱出(Exodus) ――MAGGIE J LEE個展『端役』に寄せて――

空間の変容(Metamorphose)が導く進歩からの脱出(Exodus)
―― マギー・J・リー(MAGGIE J LEE)個展『端役』:表参道画廊・WAG2022 に寄せて――
襾漫敏彦

 社会を刷新していく進歩と革新は、発展という旗の下、古いものを破壊しては新しいものへと置き換えていく。
 子供の頃、私を優しく包んでくれた風景は、いつのまにか、全く違うものになっている。夕暮れと共に明かりが灯る街燈、こちらに寄るなと唸っていたスチームパイプ、母親が見つけてくれるかと期待しながら隠れた壁、記憶がセピア色に染まる程、思い出は忘却の中へと薄らいでいく。




 マギー・J・リーは、マレーシアから留学している金属造形の作家である。彼女は、マレーシアで、太宰治や芥川龍之介といった日本文学に親しみ、日本に残る古さの余韻を嗅ぎとって、日本に来た。
 彼女が、スチールボードで作るのは、塔の先端の部分や太いスチームパイプ、そして街燈などである。リーは、それらを重力によって決められる上下、左右の空間配置から解放して、趣くままに展示した。
 展示空間の中で、僕等は、様々な方向に向けて出現する造形に再会する。そのことは過去の記憶との出会い直しをも要求していく。普通の感覚では出現しない場所に現れた彼等と出くわした時、僕等の方向感覚は、狂わされていく。

 リーの作品が、もたらすのは、記憶の中のその時とその場所の変容(メタモルフォーゼ:Metamorphose)、そしてそれは、私をしばりつけるいまとここからの解放(リベレーション:Liberation)。
 街燈、スチームパイプ、壁、塔の先端、消えていったことさえ意識できない位、ありふれたものであった。発展は記憶の中からすら、過去を奪っていく。記憶を失わずに過去と出会い直す。それは無重力となった“いま”と“ここ”という実存空間で、空中浮遊の先に脱出(エクソダス:Exodus)を夢みることかもしれない。


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MAGGIE J LEEは、和光大学の大学院の学生さんです。いまはWEBサイトはありません。和光大学のWAG2022の紹介載せておきます。



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