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【画廊探訪 No.077】踊りの中で世界を孕んで ―――『ブレイク前夜展』作品出展 踊絵師 神田さおりに寄せて――
踊りの中で世界を孕んで
―――『ブレイク前夜展』作品出展 踊絵師 神田さおりに寄せて――
襾漫敏彦
まだ、イランが王国であった頃、船乗りの父は、ペルシア湾へと荷を運んだ。そして、幼き少女は、親に連れられ湾に面する地に移り住み故郷を想いながら育つ。
公益の都、バクダット。灼熱の大地に生を受けた人々は、旅をして交わることで、漸く歴史を重ねた。彼女が故郷を夢みた水平線、そこに今は亡き父の姿もあったかもしれない。
踊絵師、神田さおり、彼女は自らをそう呼ぶ。彼女は絵筆となり身体が導くままに、様々な色に彩どられながら、美の波形を呼び起こしていく。古典的には、どこかにある理想(イデア)を希求して、それを物質をまとめあげて模写するのが美術である。これは、ギリシア的行為である。けれども踊絵師は、躍動する行為そのものを絵として現出させる。肉体を道具としたボデイペインティングではない。魂そのものの肉体の迸(ほとばし)り。その表出。
イエスを生んだセム語族の性格がここにある。
僕らの暮らす日本の大気は湿り気を多く含む。月の光は柔らかく、太陽は緑に包まれた人々を優しくあたためる。けれども、彼女の育った乾いた灼熱の大地では、太陽は叩きつけるように強く、月の光は裁きの場のように鋭い。大地は限りなく厳しい。
甘えも幻想も許さない世界では、肉体のみが確かである。私と世界、私と神、私と運命、あるのは、それだけ。広大な全てと私の間に通訳はいない。たとえ故郷の姿でも、蜃気楼は、無いものは無いと突き放す。どこまで行っても同じなら、私はここで踊る。私の中に神がいる。私の中に世界がある。私は私に表現する。かくして彼女は自分に向けて踊り続ける。
世界に世界で表現する彼女は、今回、踊り絵の中に自分を描き込んだ。それは、世界の中に、もうひとつの自分、光をさしこませることになる。父は現世に子を送った。彼女は私を描いた。ひとつの処女懐胎がはじまる。
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神田さおりさんのオフィシャルサイトです。
せひともこのページから躍動する彼女の世界にふれてください
TAGBOATのインタビュー記事のリンクもここに置いておきます
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