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【画廊探訪 No.025】天上の色彩に背を向ける美の唯物主義 ―――柴田七美作品に寄せて――――

天上の色彩に背を向ける美の唯物主義
―――「ULTRA005」Oct.Side出展 柴田七美作品に寄せて――――
襾漫敏彦

 白黒の写真を手にして、不思議な温もりにとらえられることがある。そのようにモノトーンの映像を眺めていると、色を感じることがある。空や大地の色、人の顔の皮膚の色など、記憶に染みついて安定した色を足場にして、画像のアクセントの強弱の中に、色調を想像するのであろう。

 柴田七美氏は、単色で線画を描いていたようであるが、油の絵具を使って興味深い絵を描く。二つの色のみを使用して、画像を造りあげる。それは意識して作製したモノトーンである。その一枚、私は写真と見誤った。しかし、それは、黒と白の間の階調でだけで描かれた油絵であった。

 表面の絵筆の運びは、ゴッホのようでもあり。油絵らしい運びなのであろう。それが、モノトーンである分だけ、有明湾の干潟の泥のようでもあり、油絵の具の独特の質感を感じさせる。そのせいか、彼女のモノトーンの絵からは、そこにあった筈の色というものが、染み出てこない。むしろ、音や臭い、空気の湿り気のような絵には残りにくい視覚以外の感覚が刺激されるようである。

 色彩というものが創りだす虚構を、潔く捨てている分だけ、彼女は筆の運びにかけている。それが、表現に力強さをひきこんでいるのであろうか。柴田氏の表現が目指しているのは、筆の一刷けが面をなす、物質で物質を語る表現かもしれない。


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わたしは、この人の作品に妙に惹きつけられた思いがあります。あの時、買っておけばという作品が一つあって、今は、もう手が出ないひとになっているかと思います。


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