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【画廊探訪 No.020】蒸気のように心に触れ ――青山幸代個展『極夜香』に寄せて――

蒸気のように心に触れ
―――Fuma Contemporary Tokyo 青山幸代個展『極夜香』に寄せて――
襾漫敏彦

青という漢字は、絵具の材料となる丹を取り出す井戸より現れたる生(せい)の色という意味合いがあるようである。青は丹より抽出される。過去は、記憶の井戸を通って、心へと汲みあげられ抽出されて情となる。情を感じ、嗅ぎわけることは、いにしへの物音を聴くことである。

 青山幸代氏の描く絵は、単色に近い光を背景として、若き乙女が数多(あまた)の装飾品をまとって虚空に浮かぶような幻想的な絵である。彼女は、アクリルを使い、グラディエーションのかかった原色に近い硬質な背景を築く。花、植物、宝石、生き物、荷車、楽器、髪といった無数の要素を、様々な技法を詰込んで、描き抜いていく。それらは、宝石箱のようでもあり、いたいけな子供のおもちゃ箱のようでもある。そして最後に、自分を投影するのか、乙女の肌を柔らかく油彩で仕上げていく。
 意識は過去の出会いの反映である。嬰児の頃よりの出会いの記憶が、連なり、重なって、乙女の内の心を形づくる。作者は、自分の中の香りを聴き、その根元を辿って、出会いを形にして描き出す。描き出すことは、さらに深い意識の底へと誘う。そして生まれいづる以前の記憶へともぐり、さらに深く深く星の誕生へと遡るとき、記憶の香りをあつめた乙女の幻影は、実在の彼女を超越して、限り無き大宇宙の法理の表現に繋がる。

 大宇宙は油彩の乙女の精となり、乙女の情は、アクリルの無限の空間へ回帰する。二つの相を異にする技法を繋ぐのは、丹より青をつくり出す、絵筆を使った彼女自身の対話なのだろう。

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近況は、FBで探される方がいいかもしれません。サイトは色々な作品がだされています。

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