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【画廊探訪 No.083】鉱石に閉じ込められた生の時を鋳直して ―――フリュウ・ギャラリー『ながらてん』田中謙太郎出展作品に寄せて―――

鉱石に閉じ込められた生の時を鋳直して
―――フリュウ・ギャラリー『ながらてん』田中謙太郎出展作品に寄せて―――
                                襾漫敏彦
 フリュウ・ギャラリーで開催された『ながらてん』は、十三名の作家による共同展示であった。小屋の作業所のようなアトリエの中に、様々な素材からなる作品が並んでいる。その入り口に、静かに置かれているのは、田中謙太郎氏が鍛え育てた鉄の門扉であった。

 田中氏は、門扉やフェンス、照明に表札という人が関わる空間の境を、鉄で装わせる職人である。高温に鉄を曝し、鍛えあげるにハンマーを振い続ける。それは、あたかも、落ち着きなく遷りゆく時の変化を、玄き鉱石の塊に封じていくようでもある。

 今回の作品の門扉は、流れ落ちる水流と、蒼天へと伸びあがろうとする樹木を組み合わせた意匠である。上昇と下降という方向性を残しながら、時は、鉄の中に押し留められている。

 生きるものの時は変化し、風や水は遷流する。自然のもつ小刻みの変化の目盛は、熱し叩かれて、惑星の歴史が凝縮された鉄という鉱物に鍛え直されていく。そうやって、鋳直された彼の作品は、柔らかく、物の体温のようなものを伝えてくる。それは、不安定である人の生活にあって、重みと安定を与えてくれるのであろう。

 今回の『ながらてん』は、集い寄りそうことによって、作家たちの出会って素材の顔立ちが、鮮やかにあらわれた展示であった。鉄の中の緑の自然を表現した作品が、入り口にあるのは、相応しいように思う。


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田中さんの工房のアドレスです。

トップの映像ですが、アップロードする作品の画像が手にないので、みんなの映像から関係のないものを飾っています。


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