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辰年

龍は私にとって身近な生き物だった。自室は鳴き龍のいる部屋だった。去年のリフォームの影響なのか、龍の声は聞かなくなったと思っている。

新築された今の家に住み、長く経ってきた。
住み始めて間もないときに、自室の鳴き龍に気づいた。

自分の爪切りの、パチンという音が大きかったとき。一瞬おいて、ビンという音が返ってきた。パチン・ビンという音のセットは、聞き慣れてしまったほど。
日光や京都へ行かなくても、そばの龍の存在を親しみをもって感じていた。

子どもが赤ちゃんの頃は、子どもの泣き声にも反応していた。子どもの声だけでも大音量の中、天井から降ってくる響きまで追加されるのは、気がおかしくなりそうな嫌な音だった。子どもが泣いているなら、自室から出るしかなかった。そんな不便さはあった。

少し前でも、子どもが大きな音を自室で出すと龍は出てきた。子どもとしては、それが当たり前だった。「ママの部屋で大きな音を出すと、上から音がする。」

それを鳴き龍と呼ぶことを知ったのは、一昨年だったか。自室で騒がしくしていた子どもに「龍が出てくるよ」と言ったら、「え? ママの部屋は龍がいるの?」と怖がっていた。

怖がられていたままでも困るので、大きな音の後に降ってくる音だと、実際に手を叩いて音を出した。「それは知ってるよ。ママの部屋だけ。」と、当然のような返答。

現象の呼び名を知らなかっただけ。子どもとしては、産まれたときからそうなのだから、知っていて当然だろう。

辰年の今年。私は年女。
西暦から怪しい暗算をしなくても、年齢を間違えることはなさそうだ。
ただ、自室で龍の声を聞くことは、もうないのだろうなと思う。


見出し画像:「こびとの公衆電話」Mozuミニチュア展@千葉そごう

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