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#16 思い出に変わる頃


仕事もそうだけど、恋愛も経験だよな。

俺はもういい年だから、過去の若気の至りも、「俺ってかわいかったな」と振り返られるんだけど(笑)、昔は恋愛も未熟だったよ。
いや、なんもわかんないでやってたな。

酔っぱらって帰るのに、飲まないで送ってくれた娘と車の中で話し込み、海沿いの道を走り、「ちょっと寄っていこうよ」って車を止めさせた。
そこは波の音がする駐車場だった。
近くに使われていない古ぼけた灯台があったけど、昼間は行けても、夜だから行けない。
仕方なく、駐車場に出て、草っぱらで横になり、二人で星を見て話した。

若いな~。
そして、当時のオレいい感じやれてたな~と思うけど、そっからが何も出ない(笑)
なんとなくキスしようとして、彼女はそりゃとりあえず1回は拒否るわな。
で、オレは、それでやめちゃうわけ(笑)
彼女とはそれっきり(笑)

自分の未熟さに情けね~って感じだけど、あれから30年ぐらいたつと、まあまあいい思い出だったりするよ。

手に入らない愛だからこそ輝くのかもしれないさ。


『伊勢物語』って、平安時代、『竹取物語』に並び立つ大ベストセラーだ。
まあ、売ってたわけではなくて、好きな物語は手で書き写してたんだけど。

「昔、男ありけり」
昔、こんな男がいたんだ、で始まる恋愛ストーリーだ。

なんで「伊勢」なの?
というのだけど、その理由の有力な説がある。
それは、伊勢神宮の斎宮(いつきのみや)とのストーリーだ。

男は、「狩の使」として伊勢にやってきた。
朝廷の宴会に出す鳥や獣を狩猟し、地方を視察する官僚としてのしごとだ。
そこで出会ったのが、伊勢神宮で斎宮をしていた女性。

斎宮は、未婚の皇女、つまり天皇の娘。
若く恋も知らず、青春時代を知らないまま、神様のために暮らす。
そんな彼女が、男と出会う。
そういうストーリーなわけ。

男が彼女にアプローチする、禁断な展開。
掟やぶりに、彼女が男に会いに行くんだ。
そうして、男も女も夢中な時間を過ごした。

彼女はこう歌に託すんだ。

■ 君や来し我や行きけむおもほえず夢かうつつか寝てもさめても

朝目覚めたとき、あの夜は本当だったのかと今も思っています。
ここまで女に言わせたら、応えなくちゃあ男がすたる(笑)

■ かきくらす心の闇にまどひきに夢うつつとはこよひ定めよ

「心の闇」なんて言い方、平安時代にあったんだなあと、そんなことも気になるけど。
「夢うつつとはこよひ定めよ」

今夜確かめないか?

ぐいっといったね(笑)
そうまで言ってくれるのなら、もう一度会おうってわけ。
男が、都に帰る日の前日の夜。
もう、ここしかないってタイミング!

もう一歩女心に踏み込む!
オレにこれがなかったよなー(笑)


でも、この恋は破れちゃうんだ。

この男が都から来ているってことで、伊勢の国守が接待にやってきた。
その接待を受けることは仕事。
よせばいいのに、この国守が宴会を長引かせる。
「人知れず血の涙をながせど」という気持ち。


そんな宴会が続き、夜が明けようとするとき斎宮から届いた品に歌が書かれていた。
五七五七七の上の句五七七だ。

■ かち人の渡れどぬれぬえにしあれば

徒歩(かち)の人が渡っても濡れることのない浅い「え(江)」のような私ですから。

あなたが歩いてやってきたこの伊勢で、私は足を濡れさせることもなかったですね、という意味だろうな。
「えにし」は「縁」も掛けている。浅いご縁でしたねって。


最後の別れに五七五を贈って、彼に七七を作らせようとする。
斎宮はそれを見ることもないけれど。

男は、宴会の席を照らし、消えた松明の枝で下の句を書いた。

■ また逢坂(おうさか)の関は越えなむ

また逢坂の関を越えて、再び逢おうよ。

その可能性はほとんどない。
その言葉は彼女に伝わることもない。
斎宮にとっても、男にとっても、恋は終わるんだ。

でもまあ、恋の終わりに、こんなやりとりができるというのは理想だよな。
未熟なオレの昔の恋愛だけじゃなく、実ることのない恋愛は、何気なく終わってしまいがちだよ。

そんな恋愛だけどさ、熱の冷めた頃、大事な大事な思い出に変わっていくんだろうな。


で、最初の疑問、なんで「伊勢物語」なのかってこと。
「逢坂の関」は、京都から伊勢に向かう道の途中にある場所なんだそうだ。
そういうことから、伊勢に向かった「男」の物語として、伊勢物語という題になったというのが有力な説らしい。


「逢坂」と言えば、オレの好きな清少納言の歌だな。

■ 夜をこめて鳥のそらねははかるともよに逢坂の関はゆるさじ
 (私に会おうと夜更けに鳥の声をまねたって、あなたになんかそうそう簡単に逢いませんよ)

「逢坂の関」は男女の一線を越える(笑)キーワードだったらしいな。


そんな青春時代の恋の傷をそっと撫でてるような歌詞は、サザンの「逢いたくなった時に君はここにいない」かな。

■ 寄り添えば何も言わず分かり合えてたはずの
  君だけが抱き合うたび駄目になるのを気づいてた
  誰より愛しい人よ君と歩いた夏 胸によみがえる


え?
で、女とうまくやるにはどうすればいいかって?
質問がざっぱくすぎるんだよ(笑)

うーん、例えばさ、女にプレゼントするのは、好きだからって花贈ったり、アクセサリー贈ったりするのって、いきなりじゃだめなんだよ。
こないだ飲み屋の女の子に贈ったプレゼントは何にしたか。

たまたま最近彼女が珍しくビール飲んでたんで、その流れで高めのビールタンブラー贈ったんだよ。

感触悪くなかったよ(笑)

その程度でいいんだよ。
気張ることない。
大事なのは、その娘をちゃんと見てて、その娘との文脈で考えてあげることなんだよ。

ま、恋はさわやかな方がいいかな。
酒もさわやかなモヒートでいくか。

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