見出し画像

強いふりとか気軽な旅とか

朝のウォーキングを日課にしている。近くに遊歩道があるのでよくそこを歩いていた。広々として気持ちの良い道なのだが、途中10メートルほどハイウェイの高架下を通り、そこだけは陰になっていて暗い。ちょっと緊張する10メートルだ。

割と治安が良い地域とはいえここはアメリカ。危険な目に遭いたくない。その薄暗い高架下にもし悪い人が潜んでいたら、小柄で弱々しげなアジア人女性と見られるといいカモになるのは間違いない。

「小柄」と「アジア人女性」というのは変えようが無いので、「弱々しげ」というのを矯正することにした。顎を上げ、目をギョロっとむいて睨むように前を見据え、心持ち鼻孔を広げ、胸を張り両腕を広げて大げさに振り、大股かつガニ股気味にして音を立てるようにズンズンと歩く。どこだったのか誰だったのか忘れてしまったけれど昔どこかでこんなパワフルな歩き方を見てそれを真似しているのだ。

高架下から明るく広々とした場所に出ると私は瞬時に本来の弱々しげな姿に戻る。何年ももこうしてきたがいつも高架下ですれ違うのは同じようにウォーキングやジョギングをしている普通の人々で、危ない目に遭うことは一度も無かった。

「47都道府県 女ひとりで行ってみよう」を読んでいたら、これは自分だけじゃないのだと発見した。なぜなら著者の益田ミリさんは長野では猿の集団に遭遇し、オンナ子供は猿になめられるからと急に男っぽい仕草で男に見せる作戦に出るのだ。これはきっと身を守るための女の本能なのかもしれない。

それでも、自分はともかく人がそうするのを見たり読んだりすると可笑しくてしかたない。猿になめられないよう男っぽい仕草ってどんな!と笑い、でも猿も集団だと怖いよねと頷いたところでハッとする。

猿…。記憶が蘇ってきた。思い出せなかった私の歩き方の参照元。猿に似ている何か。そう動物園だ。そうだ、あれはゴリラの檻で見た雄ゴリラ。私が模倣していたのは雄ゴリラの歩き方だった。

益田ミリさんの旅日記はわたしたち多くの読者を安心させてくれる。1人旅を可哀想だと思われないようカメラが趣味ってフリをしてみたり、ラクダに乗ってみたいのに我慢しちゃったり、目当てのお店も何度も下見してからやっと入ったり、わかるわかると頷く箇所がいっぱいだから。旅日記には使ったお金も書いてあり参考になる。そしてそのあとの4コマ漫画でまたクスッと笑わせてくれる。

昨年夫が病気で倒れ私は突如介護者となり、遊歩道を歩く代わりに、何かあったらすぐに家に帰れる近所のジムのトレッドミルで歩くことにした。いかついゴリラ歩きをする必要は無くなった。そして気軽な旅行も簡単に出来なくなった。だから旅の本を読んだり旅の動画を見たりして脳内で旅行している。この本にも楽しい妄想旅経験をさせてもらった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?