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素敵じゃない自分もいいかもしれない

一家言ある人が怖ろしい、と歌人の穂村弘さんは本の中で言う。一家言とは見識を持ったその人なりの意見。私が昔アルバイトをしていた料理屋の板前さんはそれがある人だった。素晴らしい料理を作るのだが、食べ方や食べる順番に強いこだわりがあり、客がそれを守らないと厨房から睨みを効かせ、正しくはどうあるべきなのかを呟いていた。ちなみにもっと怒ると私たちバイトに調理器具が飛んで来るので私たちは毎日ビクビクしながら働いていた。

自分の築いて来たものに自信がある人は、世の中の「間違っている」あれこれに腹をたて、「正しい事を教えてやりたい」と思うのだろうか。彼らが口にする意見はもっともらしく聞こえ、同意しないといけないような気分にさせられる。

一家言を見つけたらなるべく避けたい。「本当はちがうんだ日記」の中の、そんな穂村さんの言葉に、そーだそーだと頷く。親近感が湧いて嬉しくなる。

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穂村弘さんは自己啓発本も読むらしい。それも大事なところに線を引いて。
「素敵な自分」になるために自己啓発本を読んだり(表紙は隠すためにカバーをつけて)、素敵な人を観察したりと努力を惜しまない人だ。

私が素敵になりたい時に読むのは美容家など美しさを追求している人のHow To本。既に充分美しい著者の更なる美への追及に感心させられ、読者へのポジティブなメッセージに心を刺激される。美しい人の素敵オーラがこちらにも伝染し、輝いた人生を送れるのでは?と錯覚させてくれる。

ただ問題は題名だ。『可愛くなれる言葉と仕草』とか『振り向かれる女になる』とかそんな感じの題名。こういう本を読んでいるのを人に見られるのはかなり恥ずかしい。本棚にこういう本が並んでいるのを見られるのも恥ずかしい。だから私は穂村さんが表紙にカバーを付ける気持ちがよく分かる。ちなみに何冊読んでも美しい美容家さんのような素敵オーラは私に来ていない。

だけど穂村さんは本の中で言う。今の自分はまだリハーサル中で、ある日芋虫が蝶に変わるように本当の自分になる、素敵レベルがアップした自分に、と。

私はまた頷いた。そう、私もきっとまだリハーサル中なんだ。もしかしたら死ぬまでリハーサルかも知れないけれど、それもまたいいじゃないか。

たくさん笑って、少し切なくなり、また笑う。「本当はちがうんだ日記」は、イケていない自分を、気弱な自分を、まだまだ素敵じゃない自分を愛おしいと思わせてくれる1冊。



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