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Nobuyuki’s Book Review No.3 大沢在昌『無間人形−新宿鮫4−』(光文社文庫)

 通称「アイスキャンディ」とよばれる覚せい剤が若者の間で流行しはじめていた。新宿署の鮫島は密売ルートを探るべく行動を開始し、捜査線上に藤野組の角が浮かんだ。さらに、麻薬取締官・塔下とタッグを組み、覚せい剤の製造元に地方の有力者・香川家が深く関わっているとの情報をつかむ。やがて、事件は鮫島の恋人・晶を巻き込み、急展開をみせていくのだった。
 大沢在昌『新宿鮫』シリーズ第四弾の本書は第百十回直木賞を受賞。新手の覚せい剤の密売ルートを探り、壊滅させようと奮闘する孤高の刑事・鮫島の活躍を描く。六〇〇ページ超の巨編だが、あっという間に読ませる。鮫島の捜査を妨害するという、麻薬取締官・塔下の登場の仕方は効果的で、著者の意図通り見事に演出されているのではないだろうか。その後の絡みの描かれ方も上手い。覚せい剤製造者、それを乗っ取ろうと画策する者など、主要人物たちが丁寧に描かれ、それぞれの思惑を知りながら、その絡み合う様を読み進めることができ、物語の深みを感じさせる。中盤から終盤にかけて、ある二人の変貌ぶりには驚かされる。覚せい剤に蝕まれていく姿はとことん描かれている。毎度のことながら鮫島を見守り、支える「マンジュウ」こと桃井も、その魅力がさらに増している。潜入捜査官が誰なのかは分かりやすいが、致し方ないだろう。「東京と地方」は、ひとつのテーマといえる。ある人物の「田舎者」という言葉が悲しげに響く。
 著者によるあとがき『新宿鮫との出会い』ではシリーズ創世記の興味深いエピソードも綴られている。まだまだ語り足りない程に様々なエピソードがあるようなので今後に期待したい。とにかく愉しい、直木賞にふさわしい一冊だ。

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