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家族だからできる家族支援『家族による家族学習会プログラム』


『家族による家族学習会プログラム』をご存知ですか?

現在、全国各地で家族会や家族のグループが実施している家族が実施する家族支援プログラムです。これまで、29都道府県6,500人の家族がこのプログラムに担当者、参加者として関わってきました。

大切な家族である子どもや兄弟姉妹、配偶者等の統合失調症的を始めとする精神疾患の発症が、その周囲にいる家族に多大な影響を与えます。病気への偏見から家族内で抱え込み、やっと医療機関につながっても、病気の正しい情報を思うように得ることができず、病気の回復への道筋もつかめないままに長い年月が経過することは稀ではありません。

そのような中で、家族は精神的にも経済的にも負担を抱えて憔悴し、希望を失ってしまいます。
みんなねっとを中心として、そのような家族の実態を明らかにし、支援の必要性を訴えてきたことで、「家族支援」が改めて注目されるようになりました。

家族は支援される立場であると同時に、同じ体験を持つ者として支援ができる立場でもあります。
これからご紹介する『家族による家族学習会プログラム』は、家族だからこそできる家族による家族支援プログラムです。

プログラムの立ち上げ

平成19年5月、NPO法人地域精神保健福祉機構コンボが家族学習会企画委員会を立ち上げ、家族から家族に伝える心理教育プログラムの検討が始まりました。
立ち上げ当初のメンバーは研究者や医療者、支援者の方々のみでしたが、家族が実施するものなので家族にも加わってもらおうとの意向で、関東近辺の家族会に声がかかり、第2回目の会議から、千葉・東京・埼玉の家族が参加するようになりました。
「家族のピア心理教育プログラム」と言われても、私たち家族にとってはまったく経験のないことで、とても理解が難しく、まるで雲をつかむ話のようにも思えました。

米国の「Family-to–Family」、香港の「Family-Link」、そして全家連(かつての家族会の全国組織)発行の「家族ゼミナール」を参考として、日本で普及できる家族から家族へ伝える教育プログラムの模索が始まりました。
「家族ゼミナール」は、発行当時に全国の家族会や保健センターなどに配布されたそうですが、もったいないことに、期待したほどには活用されませんでした。
これら3つのプログラムに共通しているのは、主催する側が、それなりの時間を割いて専門的な知識を得る必要があり、実施期間も7~12日と多くの日数を必要としていました。

日本の家族の現状を見ると、多くの家族が精神疾患・精神障がいを持つ本人(以下、本人)と同居し、頻繁に、そして長時間家を空けることが難しく、本人の状態によっては急に予定を変更せざるを得ないことがあるなど、決められたプログラムを実施する上での困難が予想されました。
このような状況下でも実施できるものでなければ、いくら良いものをつくっても普及は難しいだろうと思われました。
そのため、特に実施形態や実施期間については、家族からの率直な意見を述べ、プログラムに反映されました。

話し合いを重ねる中で、企画委員会に参加される専門職の方々が、日本の家族の現状を何とか変えたい、変えなければという強い思いを持ち、家族支援に真剣に取り組もうとの意志が伝わってきたのです。
そのことが、雲をつかむように思えたこの取り組みに関わり続ける原動力となりました。
平成19年秋に日本で初めての『家族による家族学習会プログラム』が千葉県と埼玉県で実施され、それを土台に、実施箇所数を増やしながら検証を重ね、「家族学習会実施マニュアル」としてまとめてきました。
家族心理教育のノウハウを基礎としながら、このプログラムを実施した家族自身の体験を生かして、実施マニュアルの改訂を積み重ねました。
このマニュアルには、これまでに家族学習会を実施してきた多くの家族の体験からの思いと声が反映されているのです。

プログラムの特徴

このプログラムの主な特徴としては、
1.長時間の研修による医療的・福祉的な知識を学ばなくても実施可能なものとする
2.複数の家族がチームを組んで取り組むことにより、急なことで動けなくなった家族があっても実施に支障が出ないようにする(「家族による家族学習会実施マニュアル」より抜粋)
ということがあげられます。

精神疾患や医療、福祉制度などの正しい知識を学ぶためには、多くの時間と高い能力を必要とします。
そのようなものであれば、実施できるのは、ごく限られた一部の特別な家族でしかありません。
それでは、全国の家族会で取り組むことが難しくなります。
そこで、正しい知識を集約したわかりやすいテキストを活用し、そのテキストを声に出して読み合うことで正しい知識を確認するという方法を取ります。
そして、リーダーシップを持つ1人が取り仕切るのではなく、複数で役割分担をして、チームで運営します。そうすることで、急に誰かが抜けても運営が可能なのです。

さらに大きな特徴として、『体験を語り合うこと』を大切にしているということがあります。
テキストを基に、そこに書かれた内容に関連した各自の体験や思いを語り合います。
他ではとても話せないような体験や思いを、安心して話し、その話をていねいに聴いてもらえ、話したことを丸ごと受け止めてもらえる、そう感じられる場で家族が体験を語り合うことで、考え方や価値観の変化を生じていきます。
それは、私たち家族が、いつからか抱え込んだこの病気に対する偏見への気づきにつながります。
自分自身の中にある偏見に気づくことは、その苦しさから解放される第一歩です。

1.家族による家族支援

ここまでを読んでおわかりいただけたでしょうか?
このプログラムは、本人の回復を目的としたものではありません。
その目的は「家族自身が元気になること」です。
私たち家族が本人の病気をより理解し、病気や障がいを受け止め、病気や障がいを持つ人の家族としてより良く生きていくことをめざしています。
それは、家族会活動の根源的な目的そのものでもあると考えます。

家族による家族学習会プログラムとは

「家族による家族学習会プログラム」(以下「家族学習会」)とは、精神疾患を患った人の家族を「参加者」として迎え、同じ立場の家族が3~5人の「担当者」として運営・実施する、小グループで行う体系的な学習プログラムです。

定められたテキスト(家族向けの統合失調症の心理教育テキスト⑴)を声に出して読みとおし、その内容に沿った体験を語り合う中で、疾患・治療・回復・対応の仕方などについて習の理解を深める」、「家族としての体験を通して築き上げられた自分なりの考えを伝える」、「家族と本人のリカバリーのプロセスを体験談から伝える」というように、体験した家族にしかできない方法を使って学習会を進めていくことも、大きな特徴です⑵。
専門職の方々には後方支援(会場の確保・広報と参加者の募集・資金提供・オブザーバー参加等)という立場での協力を得ることはあっても、実際に学習会を計画・実施するのは家族自身です。

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このプログラムを実施しようとする家族は、『家族学習会担当者研修会』に参加しその目的や内容を学び、「実施の正しい情報と共に、家族の体験に基づいた知識や知恵を共有します。2週間~1か月に1回実施し5回で1コースが終了します。
これまでの専門職による心理教育や家族教室と異なり、その場に参加するのは家族だけです。

その中では、「家族の感情や思考も含めた体験を通して学習の理解を深める」、「家族としての体験を通して築き上げられた自分なりの考えを伝える」、「家族と本人のリカバリーのプロセスを体験談から伝える」というように、体験した家族にしかできない方法を使って学習会を進めていくことも、大きな特徴です⑵。
専門職の方々には後方支援(会場の確保・広報と参加者の募集・資金提供・オブザーバー参加等)という立場での協力を得ることはあっても、実際に学習会を計画・実施するのは家族自身です。
このプログラムを実施しようとする家族は、『家族学習会担当者研修会』に参加しその目的や内容を学び、「実施マニュアル」に従って、準備から実施、振り返りまでを自主的に行うことができます。

家族による家族学習会プログラムがめざすもの

その目的は、参加した家族も、主催した家族も共に元気になることです。
そのために、参加した家族を心から歓迎し、その苦労を労い共感し、話して良かった、参加して良かったと思える場にするための対応や工夫(おもてなしの心構え)や、困りごとばかりの話の中から、その人自身の工夫やできていること、がんばっていることなどを見つけて言葉にして伝えること(ゆで卵理論)など、グループの運営をする上で大切にしている対応の仕方や考え方があるので、『家族学習会担当者研修会』で学びます。

学習会担当者を経験した家族は、「自分が体験してきたことを学習会で語ることにより、他の人に役に立つ情報になるのだと気づきました。自分への自信を取り戻すきっかけになっています」「初回には涙ばかりだった人が、最後には本当に素敵な笑顔を見せてくれる…こちらの方が元気と勇気をもらっています」などと語ります。

また、学習会の参加者が記入したアンケートには、「テキストを読み合わせながら、個々の体験を語り合いました。話し合いが進めやすいようにルールが決められていて、それぞれの方が赤裸々な体験を安心して語ることができたと思います」「自分だけが苦しいのではないことがわかり、気持ちが本当に楽になりました」「共感し合える仲間が居ると実感し、自分の弱いところをさらけ出して苦しみや喜びを分かち合うには、顔を合わせ、輪になって話すことが必要だと強く感じました。ここに家族による家族学習会の目的を見ました」などの記載がありました。

また、「初期の頃にこのような場に出会いたかった」や「このような学習と語り合いの場を、大勢の家族が体験できたら素晴らしいと思う」という感想も寄せられ、家族会活動への期待や課題を改めて考える機会ともなります。
このプログラムが、本人の回復を目的としたものではないと書きましたが、実は、このような家族の変化が本人にも、少なからず良い影響を与えています。「本人の本当の苦しみに気づけた」「気持ちにゆとりができて、本人への対応がうまくできるようになった」「定期的に家を空けるようになり、本人との程良い距離がつくれるようになった」など、本人との関係が変化したという報告が届いています。

今後の展望と課題

この家族学習会プログラムが全国の家族会に周知され、実施を希望する多くの家族会に取り組んでいただきたいと考える理由が3つあります。
第一に、まだ家族会につながっていない家族への家族支援のためです。
かつての私たちのように、孤立して困難を抱えている家族が地域にはたくさんいます。

その方たちに手を差し伸べ、本音で語り学び合う機会をつくることができるのが、この家族学習会プログラムです。
そして、学習会参加者の5割は家族会につながりました。家族会にとっても会員を増やす機会にもなります。

第二には、家族会の人材育成のためです。会員同士でチームを組んで実施することにより、担当者になった家族は会運営のノウハウを体験を通して学び、体験の共有や参加者の変化を目の当たりにして、家族会の存在意義を体感します。

また、毎回、自分たちの取り組みがどのようだったかを振り返り、より良い運営のための話し合いを持つ体験から、会の役割を担う人材となる基礎が培われます。
そして第三に、このプログラムの普及は、今後の家族会のあり方そのものにも影響を与えるものと思います。

現在、会長という代表者一人の肩に全責任が負わされているピラミッド型の家族会は、後継者不在という危機的状況を生み出しています。

これからの家族会運営は、役割をできるだけ分担して複数の人員で支え運営していく方法が「家族会運営のてびき」⑶でも提唱されています。
家族学習会プログラムを実施することで、担当者になった家族は各自が「できることをする」という役割を担う経験をし、多くの家族との体験の語り合いを通して自身の体験の整理をし、自信を取り戻す経験を重ねます。
それに加えて、家族学習会を実施する中で「対等性」や「チームワーク」を経験し、お互いの状況を比較したり評価するのではなく、認め合い尊重し合う姿勢を身につけます。

そのような力のある会員が増えていくことで、会員一人ひとりが主体的に参加する、より活動的な家族会へと、家族会の在り方が大きく変化していく可能性を実感しています。

このように元気な家族が増えて、活発に活動する家族会が増えることは、社会への働きかけの大きな原動力にもなります。
家族だからできる家族支援「家族による家族学習会プログラム」が、多くの家族の力となっていくことを心から願って、今後も普及活動に努めていきたいと思います。

〈引用文献〉
⑴統合失調症を知る心理教育テキスト家族版「全改訂版じょうずな対処~今日から明日へ~」NPO法人地域精神保健福祉機構コンボ発行
⑵蔭山正子・横山恵子:「精神疾患を患う人の家族ピア教育プログラムにおける支援技術」精神障害とリハビリテーション16(1):62-69,2012
⑶家族会員・支援者のための「家族会運営のてびき」公益社団法人全国精神保健福祉会連合会発行


月刊みんなねっとの2016年4月号(P6~P13)より転載
テキストの写真や参加者数は、現行のものに差し替えています

この記事は、みんなねっとに帰属しますので、無断での転載・掲載はお控えください。必要な際は事務局にご相談ください。


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