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エリック教授のWeekend ミュージック #5 キース・ジャレット 「ザ・ケルン・コンサート(The Köln Concert)」

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No Music No Life.

Keith Jarrett(キース・ジャレット)、ご存知ですか?
僕が、最も好きなアーティストの一人です。
キースは、スーパー天才型のピアニストと言われています。世界最高峰の音楽アワード「グラミー賞」に12回もノミネートされていますが、残念ながら受賞をしたことはありません。

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キース・ジャレットは、ジャズの帝王 Miles Davis(マイルス・デイビス)のバンドに入り頭角を表しました。エレクトリックな音楽にマイルスが傾倒していた時で、当時キースはオルガンを弾かされていました。これまた天才のChick Corea(チック・コリア)とツインキーボードで演奏していました。

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キースは元々、電子楽器があんまり好きじゃなかったのですが、マイルスという神様と演奏できるからということが大きかったようです。
マイルスのバンドを辞めてからのキースは、エレクトリックを完全に捨て、アコースティック楽器にこだわったピアノ中心の演奏になり、独自の素晴らしい音楽を生み出してきました。

ソロになってからのキース・ジャレットを一躍有名にしたのが、死ぬまでに聞いて欲しい最高傑作のアルバムのひとつ、「The Köln Concert(ザ・ケルン・コンサート)」です。


このアルバムは、インプロヴィゼーション(即興演奏)、つまり自由にその場のフィーリングで、音と対話しながら生み出していくスタイルです。
キースが、ピアノだけの即興演奏でアルバムを作ったのは、このケルン・コンサートが初めてだと思います。一曲目は、なんと26分もあるんです。即興でこの時間は長いですよね。
即興演奏というと、実験的な音楽を想像する人もいるかもしれないですが、奇跡とも言えるくらい素晴らしいメロディが続々と出てきます。

キース・ジャレットは、とても音にこだわる人です。
音の調整で、ピアノの位置を1cm単位でずらすことを要求するから、付き人が「いい加減にしてくれ」とすぐ辞めていく、という話で有名なくらい、音に厳しい。
キースは、もちろん楽器にもこだわりがあります。ただ、ギターと違って、キースが愛用している最高峰のピアノであるスタインウェイを会場に持っていくのはとても大変なことなので、コンサートを開催する国々で、都度調達することになります。

実は、このケルン・コンサートの時、会場だった教会にスタインウェイが届かないという事態が起こったんです。
かなり規模の大きいコンサートだったので、ビジネス的にも中止することはできなかったんでしょう。しかも、キースの体調は疲労で思わしくない、そんな状態の中、急遽会場の教会にあったコンディションのよくないピアノを調律し直して、最悪のコンディションの中で演奏した、という秘話があります。こうして奇跡の名盤が生まれたのです。

「最高の楽器を使って最高の演奏をする」これは一流アーティストにとっては、あるべき環境です。しかし、このケルン・コンサートは、まともな音が鳴らないピアノをどうやって鳴らせるか。演奏でそれが補完できるのか。マイナスだらけの状況の中で、観客にどうアプローチして満足感を得ようか。通常ではあり得ないストレスが、キースにのし掛かっていたと思います。
神から舞い降りた奇跡のメロディは、こういった精神状態の中だからこそ生まれたんじゃないかな、と思うんです。
全てが完璧だから良いものができるのではなく、火事場の馬鹿力のような状況の時にこそ未知の能力が発揮される、それが人間の凄さだと思います。芸術においても、悪い条件から素晴らしい作品が生まれてくることがあるんです。

僕は毎回聴きながら、それを感じています。
絞り出すような音、実に綺麗なメロディ、なんですよね。
即興って結構機械的なものになりがちなんです。でもキースからは、かなり綿密に作り込んだような繊細なメロディが、心を射るような音とともに溢れ出てくるんです。

実はこのあと、キースは、さらに驚異的なアルバムを出しました。
Sun Bear Concerts(サンベア・コンサート)という、1976年11月の日本ツアー中に収録されたソロピアノ演奏のライブ盤です。8箇所で演奏したものが10枚組のLPレコードで出たのです。10枚組ですよ?ジャズは2枚組でも売れないと言われてるのに10枚組だったため、かなり話題になりました。各公演、全て違うメロディで全て違う演奏をしているんです。
実は、ケルン・コンサートは、あまりにも凄すぎて、本当は事前に準備してるんじゃないの?と言う人もいたようです。でも、このサンベア・コンサートがリリースされて、即興だということが証明されました。
ケルン・コンサートはあの時にしかない、奇跡的な演奏だったのだといえます。

僕らも生きていて、辛い時や大変な時があると思います。そういうとき、あきらめないで頑張ると、思いがけずこれまでになかったくらいよい仕事ができたり、よい作品ができたりすることがあります。
何か大変なことがあっても、ベストを尽くそうとすることで、乗り越えられるのではないでしょうか。
「こんなはずじゃなかったのに…」という状況に陥った時、この「ザ・ケルン・コンサート」を聴いてみてください。
最悪な状況の中で、奇跡の演奏が生まれたことに、きっと元気と勇気が湧いてくると思います。

Peace out,

Eric

★Apple Music プレイリスト「エリック教授のWeekendミュージック」も聴いてくださいね!

●「エリック教授のWeekend ミュージック」noteチーム 
 エリックゼミ
 大滝理紗、加藤美野、川口真凜、関根侑希、高橋幸智、細田知美

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