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東中島のユキ子 ~フシギ以上心霊未満の話~ 【その1「はじめに」】

むかし、双子の遊郭島が岡山にありました。岡山の一級河川・旭川に仲良くならんだ中州、それが西中島と東中島です。かつては岡山一の花街を誇り、戦後は東西中島は共に赤線地帯でした。

売春防止法以降はこれといった産業が誘致されることもなく、私が幼少時をすごした昭和50年代はスナックや怪しい店がかろうじてポツリポツリと軒を並べていたぐらいで既に衰弱しきった町。岩井志麻子先生の『ぼっけえ、きょうてえ』という小説の舞台が江戸時代の東中島ですので、作品が話題になった時は「暗い感じが懐かしいわ」と家族で盛り上がったものです。先祖がその小説世界に生きていたと思うと、なんだか誇らしく嬉しい気持ちです。


私の母の話をしたいと思います。

私の母・ユキ子は東中島で生まれ育ち、父と結婚して兄と私を生んでからもしばらくは東中島の生家で生活をしていました。

ユキ子は私によく不思議な話をしてくれました。幽霊や妖怪とも違う、目に見えない世界の話。オチもないような話ばかりですが、最後に必ず「だから目に見えない世界はあるんよ」と言うのがお約束です。現実とは少しずれた世界の話で、その話の舞台の中心は東中島が多い。


東中島の家はとっくにもう無いし、あの島は治水対策の一環によって近い将来、人も建物もどこかへ行ってしまう。せめて私たち家族と、あそこに住んでいた人たちしか知らない話を残しておこうと思い記事にしようと思いました。


不思議だけど、幽霊話みたいな怪談とは少し違う『東中島のユキ子』の話にどうぞお付き合いください。






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