おやすみ私_ヘッダー2

おやすみ私、また来世。 #16

 彼女は頭上を通り過ぎるマンタの姿を、瞳を輝かせながらじっと見つめていた。こんな風に歓んでくれると、本当に誘って良かったと思う。
 せっかくの夏休みだし、何か夏らしいことをして、彼女の受験勉強の気晴らしにしようと考えた。が、完全にインドア派の二人が、海に行くなんてことは、とても考えられなかった。だから屋内で夏っぽいことは何かと思ったとき、水族館ならそれを満たしているような気がして、僕は彼女を水族館に誘った。
 幸いなことに、東京にはいくつも水族館があった。開業した五年前に、海底トンネルが話題になったことを思い出し、「品川アクアスタジアム」を選んだ。二人とも来たことがなかったことに加え、なにより二人の行動範囲から近い、というのが一番の理由だった。
 ──ワンダーチューブと呼ばれる、海中トンネルを模した通路で、客は巨大な水槽を仰ぎ見て歩くことができた。その天井部にある水槽の中をたくさんのサメやエイが悠々と泳いでいた。僕らはゆらゆらと青い光の漏れるトンネルの中で、気ままに泳ぐエイやサメの姿を眺めた。普段あまり見ることのできない魚の裏側が観れることが最大の特徴だった。
 彼女は「エイの顔って、なんか宇宙人っぽいね」と嬉しそうに言った。蒼白い彼女の顔に照明の灯りが映ると、それは更に青く見えた。
「あー、確かに──でも顔っていうか、あれは目に見えるかもしれないけど鼻なんだけどね」
 彼女は一瞬、怪訝な顔をしてから、「──そっか、目は横についてるもんね」と、どこか悲しそうに応えたのが可笑しかった。宇宙や超常現象には詳しかったが、魚の生体については余り興味がないのかもしれない。
 彼女は水槽越しにエイやマンタを被写体に、とにかく写真を撮りまくった。それでも、どこか不服そうにもしていた。中は薄暗く、周囲に反射するものばかりなので、思うように写真が撮れていないのかもしれない。
 すると彼女は、無言で撮った写真を僕に見せてきた。僕が彼女のスマホの画面を覗き込むと、そこには彼女の言うところの宇宙人の顔が綺麗に写っていた。そして、そのエイの周囲にはたくさんの小さなクラゲが漂っているのが見えた。
「──あれ? クラゲなんていたっけ?」
「ううん。クラゲじゃない」
 彼女は画面をフリックして撮った写真を次々に見せてくれたが、そのどれにもたくさんの光の珠が写っていた。その半透明の白い環は、水に映るとミズクラゲのようにも見えたが、実際にはクラゲではなかった。
「これって、オーブ……?」
「だね」
 僕はもう一度、注意深く水槽を確認してみたが、やはりそこにクラゲの姿は見えなかった。彼女は写真を撮るのを諦めると、再び中空を浮かぶマンタの姿を猫のような瞳でじっと見つめた。
 僕は自分のスマホを取り出し、一枚だけ水槽に向かってシャッターを切った。すぐに撮った画像を確認したが、やはりそこにクラゲのようなオーブが写ることはなかった。

 アクアスタジアムの強みのひとつでもあるイルカショーを見学する。アリーナ状になった水槽を取り囲むようにして座席が配置してあり、水槽に近い一部の座席には、イルカがジャンプした際の着水時に、水飛沫がかかる恐れがある、と注意書きがしてあった。それでも人気の席なのか、すでに最前列の席は、カップルや親子連れで埋まっており、皆ビニールのレインコートを嬉しそうに着込んでいた。
 彼女は何かを察したのか、水槽から程よく離れた場所を選んだ。水槽に一番近い座席でも、水際から二メートル近くは離れていた。そうそう水しぶきがかかることなどないだろうと思っていたが、予想を遥かに裏切ることを後に知ることになる。
 会場に華やかな音楽がかかり、イルカショーが始まった。ウェットスーツを着込んだ調教師たちと登場する。イルカが想像していたよりも巨体なことに驚いた。しかもその体躯で、かなりの高さのジャンプを繰り返す。着水する度に水飛沫が上がる。ショーが最高潮に盛り上がったとき、イルカがそれまでで一番のジャンプを見せると会場は歓声に包まれた。その直後、最前列にいたカップルは洗礼を受ける。大量の水飛沫をまともに受け、全身ずぶ濡れになった。それを目にした僕は、思わず「うわぁ……」と声を漏らした。隣りに座る彼女はそれを見て渋面を作っていた。想像以上に迫力のあるステージだったが、レインコートが意味を成さないほどずぶ濡れになるなんて思いもしなかった。余程の覚悟がない限り、わざわざ最前席で観る気にはなれない、というのが正直な感想だった。
 ある意味衝撃のイルカショーを満喫した僕らは、出口に併設されたスーベニアショップを見て回った。あまりこういったお土産品の類に興味はなかったが、彼女は掌ほどの大きさのマンタのぬいぐるみを見つけると、徐ろに裏返した。そこに彼女の期待したような宇宙人の顔はなく、一瞬残念そうな顔をしたが、それでも気に入ったのか「──でも、かわいい」と独り言を呟いた。
 彼女もそんなファンシーな物に興味があるんだなと意外に思った。確かに今日も猫のシルエットの着いた甘めのミニスカートを履いている。そのことを思えば、根本的に可愛い物が好きなのだろう。
 僕は黙ってそれを買い彼女に手渡した。少し戸惑ったようだが、か細い声で「──アリガトウ」と微笑んだ。
 それぞれに満足した気持ちでアクアスタジアムをあとにすると、彼女は余程嬉しかったのか、買ったばかりのマンタのぬいぐるみをショッパーから取り出し、じっくりと観察した。そして嬉しそうにそのままマンタを握ったまま歩いた。時折すれ違う人が微笑ましく彼女を観ていたが、彼女はそれを気にすることもなく、定期的に裏返しては、そこに宇宙人の顔がないかを確かめていた。それは僕と別れるまでずっと続いていた。

┃神@zinjingin・2011/10/5
┃『ノルニル・少年よ我に帰れ』
┃『輪るピングドラム』後期OP曲に合わせてようやくCD化。
┃後期OPのほうが好きかな。

┃あおり@aoriene・2011/10/5
┃mee too.

┃あおり@aoriene・2011/10/8
┃誰かに揺さぶられた気がして起きた。
┃夢?

┃神@zinjingin・2011/10/5
┃こわっ!

あおり@aoriene・2011/10/10
眠ると誰かが声をかけてくる。
でも、それが誰かもわからないし、何を言ってるかもわからない。

┃あおり@aoriene・2011/10/14
┃いらいらしたくないのにいらいらする。
┃いらいらいらいらいらいらいらいらいらいら。

┃神@zinjingin・2011/10/14
┃落ち着いてーw

神@zinjingin・2011/10/27
今日発売の『ユリイカ』11月号は
「特集やくしまるえつこ」。とにかく内容が濃ゆい!
いいね1

あおり@aoriene・2011/10/28
夢と現が交差した場所。
きっと、どこかにアストラル界と繋がりやすい場所がある。

┃あおり@aoriene・2011/11/1
┃スマホ不調。
┃でも、それで世間と繋がりが薄くなって、
┃不安になるのは嫌いじゃない。

┃神@zinjingin・2011/11/1
┃こっちは不安ですよー。

あおり@aoriene・2011/11/10
その声が理解できたとき、きっと私は次のステップにすすめる。

あおり@aoriene・2011/11/15
それは、きっと私に向けられた神託。

あおりさんがリツイート
コズミックニュース@cosmicnewz・2011/11/26
探査車「キュリオシティ」、火星に向け打ち上げ。
11月26日午前10時2分(米東部標準時間)、火星探査車「キュリオシティ」が米フロリダ州のケープ・カナベラル空軍基地から打ち上げられ、火星に向かう軌道に乗った。
来年8月6日に火星に着陸し、生命環境の歴史を本格的に探る。
いいね351


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