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【ショートショート】 もらい笑い

「ワッハッハッハ」
「どうしたの?」
「もらい笑いだよ。ワッハッハ」
「何がそんなに可笑しいの?」
「ワッハッハ、君も笑うといい」
「そうだよ、笑いは伝染するんだから」
「何が可笑しいのかわからないし、僕は笑えないよ」
「難しいこと考えちゃダメ」
「アーッハッハッハ!」
「こっちでも笑ってる…何がそんなに面白いんだろう」
「はーっはっはー!」
「イッヒッヒッヒ」
「ガッはっはっは!」
「みんな、何が面白いのか教えてよ」
「面白いから笑うんじゃない。笑うから面白いんだ」
「逆ってこと?」
「ああ。大切なことはみんな逆なんだ。逆立ちして歩けば、まともな世界が見えてくるさ」
「そういうものかな?」
「まだ迷ってるの?笑えばいいだけなのに」
「あーっはっはっは!こりゃあ愉快だ」
「腹がよじれて苦しい」
「ゲホゲホ…呼吸できない」
「大丈夫?ちょっと笑い過ぎなんじゃない?」
「あいつらは大丈夫だよ」
「誰?」
「俺も笑う者さ」
「笑ってないじゃないか」
「腹の中で笑ってるんだよ」
「だから真顔なんだね」
「ああ。腹の中じゃ大笑いしてるんだけどね」
「楽しい?」
「ある意味では」
「どんな意味?」
「あんまり穏やかな話にはならんさ」
「内緒なの?」
「当たり前だよ。わざわざ腹の中で笑ってるんだから」
「そういうものかな?」
「そういうもの」
「笑いにも色んな笑いがあるってことかな?」
「腹がよじれている奴もいれば、呼吸できないほど笑う奴もいる。腹の中で笑う奴も」
「笑うから面白いんだって」
「そうなのかい?」
「腹の中で笑っていて面白いのかな?」
「いや、面白くはないよ」
「じゃあ、なんで腹の中で笑うの?」
「なんでかな?」
「わからないの?」
「本当は腹の虫がおさまらなくて、腹の中の虫を退治したいから…とか」
「無理に笑っている?」
「ああ」
「声に出して笑った方がいいよ」
「ハハハハハッ…こんな感じ?」
「笑っているうちに楽しくなってくるはずだよ」
「考え過ぎだったのかな」
「そりゃそうさ。笑っていれば皆んな笑うよ」
「ずっと真顔で生きてきた」
「いいえ。君はもう笑ってるよ」
「伝染したみたいだね」
「ハッハッハッハッハ!」
「バッハッハッハッ!」
「笑いっぷりがいいね」



(888字)

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