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「鶏のコッコが死んだ」

我が家では鶏を飼っている。
今は全部で3羽いる。
その内の一羽を、私は「コッコ」と呼んでいた。
コッコは毎日必ず1個卵を分けてくれる。
とっても人懐っこい。

昔から何羽も飼っているけれど、この鶏は私にとって中でも特に特別な鶏だった。
何でかって、それは有精卵を温めて孵した鶏だから。

それまでは、養鶏場で廃鶏になる鶏を貰ってきて飼っていたけど、インドで鶏の孵化も勉強してきていたから、ちょうど家に鶏がいない時期に、いい機会だから自分でもやってみようと思ってやってみたんだった。

去年の春に、2回卵を温めた。
多分全部で10~13羽くらい孵ったけれど、温度管理が上手くいかなかったり、他の雛に潰されて死んでしまったり、猫に襲われたりして結局大きく育ったのは4羽だった。


1回目のが2羽に、2回目のが2羽だ。
鶏は、弱いものを酷くいじめることがあるから、孵化した時期の違う鶏は小屋を分けて飼うことにした。


卵の為に鶏を飼っているから、メスがたくさん生まれたらいいなと思っていた。でも、若い頃にはメスかオスか区別をつけるのが難しくて、気が付いたら1回目と2回目、両方ともオスとメスが一羽ずつだった。つまりメスは2羽だとうことで、最初は「あ~卵は1日2個か~」と、少し残念だと思ったけれど、有精卵だからまた孵卵ができるな、もう少ししたらまた卵を温めてみよう!とすぐに楽しみになっていた。


だけど、鶏たちが大きくなるにつれてそんな考えは無くなった。
むしろ、もうこの鶏は孵卵したくないと思ってしまった。
何故って理由を話すと、飼っておいてこんな事言うのは鶏に対して本当に失礼だと思っているんだけど、とにかくこのオスが凶暴過ぎるからだ。

横目で睨むオス

エサをあげるのも、水をあげるのも、卵をとるのも難しい。とにかく小屋に入ることが出来ない。
小屋に一歩でも足を入れると、オスが走って来て、強烈なキックをしてくる。これが物凄く痛い!痣が出来てしまうほどだ。
それに、迫力があって、オスに睨まれただけで私は動けなくなってしまう。

コッコの小屋のオスも見た目から物凄く怖くて、ある時から近寄れなくなった。コッコにだって近寄ることはできなかった。オスが近寄らせてくれなかった。オスからしたら、大切なメスを取られるかもしれないと思ったのかもしれない(生まれた時から優しく関わってきたつもりなのに涙)。
それでも、オスは人間に対してだけではなくて、メスへの暴力も酷かった。
毎日コッコの叫び声が聞こえてきた。コッコの背中も羽がすっかり抜けてしまった。私は耐えられなかった。もう!あんなオスなんてこりごりだ!と心の底から思った。

そんなある日、色々あって、コッコのパートナーのオスはいなくなった。
そしたら、コッコはとっても元気になった。オスからの支配もなくなって、楽しそうに暮らすようになった。もう叫び声も聞こえてこない。

毎日外に出て、自由に行きたいところに行けるようにもなった。
その頃から、人懐っこくもなった。

コッコは、人の後をついて歩く。
隣の家に行ってこようと思て、裏の林を歩いていたら後ろから走ってついてきた、なんてこともあった。
人が座ると背中をつんつんしてくるし、たまに背中にピョンっと乗ってくることもある。膝にだって乗ってくる。
豆を脱穀している時も、一生懸命虫を食べて手伝ってくれる。
手伝ってくれるのは良いんだけれど、種まきの邪魔をすることもあるし、発送用の野菜を食べてしまうこともあって、怒られることもあったけど、そんなコッコもとにかく可愛い。

小豆の脱穀を手伝うコッコ

冬になる前、オスの暴力によって羽が抜けてしまっていた背中にも、白くてフワフワの羽が生えてきた。
暖かい羽に覆われて、無事に冬を越した。

卵から孵ってからしばらく、コッコは家の中で育った。
それを覚えているのかいいないのか分からないけど、コッコは家の中に入りたがる。まるで、私の家はここだとでも思っているみたいだ。私が入るとその後に続いて入ってくる。
でも、コッコには立派な小屋があるんだから、といつも連れて帰る。

前飼っていた鶏は、みんな暗くなると必ず自分たちで小屋に戻って止まり木で寝ていた。だけどコッコは違う。何故か暗くなっても小屋に帰ろうとせずに、人間の家の扉の前に座っている。
だから、コッコの家はあっちでしょ、と毎回連れていかないといけない。
コッコは自分の事を人間だと思っているのか…と、考えてしまう。
そんなコッコもまた可愛い。


ついこの間、夜になってコッコを小屋に連れていくのをすっかり忘れてしまったことがあった。朝になって、「コ~~~~~ッ コッコ コ~~~~」と外で声が聞こえて、まだ小屋の扉を開けていないのに変だなと思って気が付いた。夜の間に獣に食べられてはいけないから、必ず小屋に連れていく事になていたのに…。その日はうっかりしていた。コッコ、生きていてよかった。

鳴き声を聞きながらそんな風に思って、でもまだ朝も早いから私は二度寝した。父の声で起きるまで、私はぐっすり寝ていた。

外にいた父がバッ!と扉を開けると、そこにいた母に向かって「おい!コッコが死んだぞ!!!何かに食べられた!!」と話している声が聞こえた。
私はさっきまで声がしていたんだし、まさかな。と思って、まだ起きなかった。
でも、その後父が「ほらあそこにコッコの羽が散らばってる」と母に言って、母が「あ~~~~~~!!!!」と叫んでいる声を聞いて私は飛び起きた。まさか!!!さっきまで元気な声が聞こえていたのに!!!!!
急いで外に出てみると、確かにそこにはコッコの羽が大量に散らばっていた。

まだ近くにいるかもしれないと思って、落ちている羽を確認しながら、いったいどこに連れていかれたのか私は探した。
でも、羽が散らばっているのは1か所だけで、他には見当たらない。
念のために家の周りや森の中を1時間くらい探し回った。
けれど見つからなかった。
コッコの姿はどこにもなかった。

悔しくてたまらなかった。
夜の間に目を付けられていたのかもしれない。
ちゃんと小屋に戻さないとやっぱり駄目だったんだ。
後悔しても、もう遅い。

どんなに探しても見つからないし、コッコ~~と呼んでも返事はない。
もうみんな「コッコは死んだ」と言って、その日の朝は天気が良いのに暗い朝になった。
私は散らばっている羽を、一つ一つ拾い集めた。
白くてフワフワで、とっても綺麗な羽だった。
形見として瓶に入れて家に持って帰った。

誰が連れ去ったのか考えてみたけど、猫か、、、キツネか、、、それとも何か。考えてみても分からない。その瞬間を見ていないんだから。


私は、昔から鶏が大好きで、コッコの事も大好きだった。
こんなに人懐っこい鶏も初めてで、とても可愛がった。
だから余計に悲しかった。
もう一緒に散歩にも行けない。
ちゃんと夜小屋に戻せばよかった…。

バタバタした朝になって、私は少し遅めの朝ごはんを作っていた。コッコがいなくなってから4時間くらいたっていた。

キッチンの窓から、ちょうどコッコの小屋が見える。
住人がいなくなった小屋の中は何だか物凄く静かだった。

集めた羽を窓辺において、お花も摘んで来て飾った。
コッコ、今まで本当にありがとう。

朝ごはんを作りながら度々外を見ていた。
いったい誰に食べられちゃったんだろう...。
あぁ昨日ちゃんと小屋に戻せばよかった。

そんな風に思ってぼーっとしていたら、突然目の前を白い生き物が歩いて行った。
「まさか!!!!!!」と思って私は急いで窓を開けた。

目を疑ったけど間違いなかった。
その白い生き物は「コ~~ッ コッコ」と言って、小屋に入っていった。

何と、死んだと思ったコッコが歩いてどこからか帰ってきたのだった。

私は走って外に行った。
コッコを見ると、一部羽が抜けた部分があった。

コッコは死んでいなかった。
生きていた。

襲われて、上手く逃げてどこかに今まで身を潜めていたんだ。

コッコが帰ってきて、私が小学生くらいだった頃の事を思い出した。
ある日鶏小屋に獣が入って、朝起きた時には小屋の中には鶏が1羽もいなかったことがあった。
みんな死んだ、連れ去られてしまった思っていたら、何羽かは死んでしまったけれど、木の下の洞に隠れている鶏がいたり、川の窪みに隠れている鶏がいたり、その事件の4日後くらいにどこかから帰ってきた鶏がいたのだった。

鶏は、獣に襲われたとき、上手く逃げることが出来た場合、どこかに隠れて安全が確認できるまで動かないんだ、と今回の件で改めて知った。

それにしても、生きていてよかった。
可哀そうに、コッコは結構ショックを受けていて、その日から数日間は扉が開いていても外に出ることはなかった。

今日やっと、外に出てエサを探して歩いている姿があった。
元気になって一安心だ。

これからは、夜にはちゃんと小屋に連れていくよ。
(自分で行ってくれても良いんだけどね)

今日も卵をありがとう。







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