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【映画レビュー】『Drive my car』

観ている時間が心地いい映画だった。
でもとても複雑な映画。
きっと誰にでも『いい映画』ではない。

私にとって好きな映画って、だいたいは音楽がいい映画。
けれどこの映画は、音楽は不思議なほど空気のように自然で無意識の領域。

村上春樹は登場人物に語らせるのが好きだ。
春樹の作品は2、3作品読んだだけで、ファンでもなんでもないが
独特の世界観はなんとなく理解している。
映画の中で妻に語らせる、犯罪を犯す女子中学生の話が面白い。
最近読んだ女子中学生が主人公の小説『しろいろの街のその骨の体温の』
となんだかシンクロしている。

もやもやした思いがある。
西島秀俊演じる男が、妻の浮気を知っていながら
本人に問いただすことで夫婦の関係が崩れるのを恐れているうちに
妻が亡くなる。
死後、浮気された自分の気持ちと向き合わないようにしていたことを悔やむ。
正しく傷つくべきだった、と。

思うのだけど、誰だって傷つきたくはない。
何か嫌なことがあったとき、いろんな理由をつけて自己防衛する。
相手を否定したり、環境を否定したり、自分を否定したり。
そうやって偏った自分の手の中の真実を
どうにかこねくり回して、乗り越える。
正しく傷つくなんて、そんなの無理。
だから主人公がたどり着いた正しく傷つくべきって心境に
同意できなくてもやもや。

ドキドキしたシーンがある。
フェリーに乗っていて、風と波とエンジンの轟音から
突然切り替わった雪景色。
完璧な静寂。
今、息をして平気かな、と思うほど。
無音という効果音
はじめて知った。

グッときたセリフがある。
誰かのことを深く知りたいなら
自分を見つめるしか方法はないんだ。
と言う岡田将生。
そう、結局それしかないんだよなあ、と染みる。

映画が始まる前に行ったトイレの鏡に映る自分と
終わってから行ったトイレの鏡に映る自分。
同じはずなのに。
いやむしろ3時間経っているから疲れて、かすんでいてもいいはずなのに
じわっと自分が愛しくなった。
そんな映画だった。

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