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生きる#30 初めてイノシシに銃口を向けた日

ここ最近は毎日のように
「イノシシいらんか〜?」
と連絡が来る。

その日も
「うちの大きい罠にイノシシ5頭入ってます。いかがでしょうか?」
とメッセージ。

何度か引き取りに行ったことがある、動物園のような大きな囲い罠。
止め刺しは銃でないと難しく、毎回支部長Sさんが銃を持って駆け付ける現場だ。

スケジュールを確認し、引き取りと解体処理の段取りが付きそうだったので、相方の髭に連絡した。
すると髭から
「銃での止め刺し、させてもらわん?」

理解するのに時間がかかった。
一瞬頭が真っ白になりながらも
「そうですね」
と、どうにか返事をした。

わたしと髭は、2021年に銃を所持した。
その時のことをまとめかけてたけど、2021年10月31日に記録してたので省略。

銃所持までの長い道のりは、こちらを参照ください

あれから2年。
銃の安全な取り扱いのために、射撃練習や射撃大会は定期的に参加している。

一昨年は支部の共猟にでかけ、初めて鴨撃ちも経験した(あたらなかったけど)

ただ、イノシシに向けて銃を撃つ機会はなかなかなかった。

理由はいくつかある
・私たちが有害鳥獣捕獲としてイノシシ用に罠を設置していない(実施隊としての依頼は市街地の中型獣がほとんど)
・箱わなの止めさしがほとんどで、電気ヤリを使うことが多い(鳥獣被害対策としての捕獲では安全のため電気ヤリを推奨された)
・そもそも猟欲があまりない(猟期はオフモード)
・銃はふだん銃砲店に預けている(出動に時間がかかる)

しかし、元はと言えば
「先輩からの技術を継承したい」
「もっと役に立つ存在になりたい」
この想いから銃を手にしたのだ。

いつかはちゃんとイノシシの止め刺しを経験しなければ。

そう思ってはいたが、その機会は突然やって来た。

囲い罠の持ち主も、支部長のSさんも、これまでお世話になってきた信頼できる2人。
今から現場に向かう途中に銃砲店に寄り、自分の銃と弾を調達しても時間的に間に合う。
複数頭いるので、髭と交代で実績が作れる。
外しても自分達が引き取るイノシシなので、最後まで責任が持てる。

なるほど、
こんな機会はそうそうない。
髭は短時間でこの条件をチャンスと捉えたのだ。

わたしも考えれば考えるほど納得できた。

…が、気持ちがついてこない。

「そうですね。やりましょう」
と、髭との電話を切り、
Sさんに
「私たちにやらせてください」
と電話を入れた。

出かける準備をしながら、心の準備もする。
歯磨きをしながら心臓がバクバク鳴っていることがわかった。

数百人の人の前でプレゼンする方が断然緊張せんわ!!と心の中で叫んでいた。

銃砲店へ寄り、現場に向かった。
車内でも頭の中は不安でいっぱいだった。
不安な気持ちを認めつつ、頭で納得させながら少しずつ覚悟を決めるのだ。

考えてみれば、
初めて有害鳥獣捕獲現場に向かう時も、
自分で捕獲したアナグマを初めて止め刺しする時も、
射撃場で初めて銃を撃つ時も、
いつもそうだった。

そして、どんな時も髭は至って冷静だった
(少なくともわたしからはそう見える)

いろいろ経てきたことを頭に浮かべながら、自分を奮い立たせた。


少し早めに現場に着いた。
メスの成獣2頭と幼獣3頭が走り回っている。
あまり長いこと観察しないようにした。
必要以上に情を持たないように。

罠の持ち主とSさんが到着し、準備も整った。

「先行く?」
と髭に訊かれ、頷いて銃を持って近づいた。
(この緊張状態のまま待機できなかったので)

まずは成獣2頭のうち、1頭ずつを担当することになった。

できるだけ肉や内臓を損傷しないように、
できるだけ1発で楽にさせてやりたい。

動き回るイノシシが立ち止まり、自分の体勢が整ったタイミング。

(今だ)
引き金を引いた。

パーン

次の瞬間、目の前でイノシシが倒れた。
経験の浅い私でもわかるくらい、完璧に決まった。
「おー、一発で決まった!たいしたもんだ」
先輩方から激励をいただきながら、

(このまま他のイノシシも狙うか?)

一瞬頭をよぎったが、想像以上に呼吸が荒くなっていた。
「代わろうか?」
髭にそう言ってもらった瞬間、自分でも笑えるくらいの脚の震えが襲ってきて、とてもじゃないけど再度銃を構えられる状態ではなかった。

震える身体を抑えつつ、なんとかこめてた弾を抜き、続きをやってくれる髭の後ろ姿をボーッと見つめていた。(そつなくこなす髭)

たった一発でこんなになるなんて、情けない。

けど、先輩方も本当の本当に初めての時はこんな気持ちだったかもしれない。
そして、どんなに回数を重ねたとしても、この時の緊張感は忘れてはならない。


電気ヤリでも銃でも、
イノシシでもアナグマでもヌートリアでも

生き物の命を奪う行為には変わりない。

「慣れました」

簡単に口にしてはいけないし、したくない。

忘れられない初体験を経て、改めて胸に刻んだ。

自分達が撃ったイノシシの心臓はそれぞれ持って帰ることにした。


家に帰ってから、急激な空腹感が襲ってきた。
「食べたい」
本能としての食欲から、衝動的に心臓を炒めて食した。

いつもよりやわらかく、特別な味がした。

髭はいつもと何も変わらんと言っていた。

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