見出し画像

日本農業新聞コラム③ ”命いただく“実感

協力隊 2 年目の夏、ある地域のお祭りで協力隊が一つのブースを担当することになり、同期 3 人で考えて、市内の獣肉処理施設を持つ「八雲猪肉生産組合」から猪肉を仕入れ、隣町にあった食肉製品製造の会社にお願いして猪肉フランクフルトを作ってもらい、串を刺して焼いて販売することにしました。
そうすると、1 日で 100 本近く売れるほど好評で、その後もいくつか市内のイベントでも販売を続けました。
そんな中、ふと「私達は串を刺すことしかしてない。これは果たして地域のためになっているのか」と。
私達は猪肉のフランクフルトを販売しながら、その商品の背景を何も語れずにいたのです。

そこで同期と相談し、猪肉生産組合にお願いしてイノシシの解体を見学させてもらうことにしました。
そこで、イノシシという「生き物」を猪肉という「食べ物」にしていく過程を知り、私がそれまで管理栄養士として持ち続けてきた「食べ物=栄養素」という価値観が大きく揺さぶられました。
シンプルですが、私達が口にする食べ物の全ては、様々な生き物のいのちの犠牲のもとで成り立っている。シンプルだけどとても大切なことに改めて気付かされたのでした。

そもそも、なぜイノシシを獲るのか。私は更に深く知りたくなり、猟師さんにお願いして、罠の見回りに同行させてもらいました。
そこで初めて、イノシシによる農作物被害が深刻であること、そして、有害鳥獣として捕獲されるイノシシのほとんどが埋設処分されている現状を知ることになったのです。
同期の「この世界で結果を出すには最低 10 年かかるだろう。それでもやるか」の問いに、私は迷う事なく「やりたい」と答えていました。
そのためにはまず現場に入って山を知る先輩から直接技術や知識、マインドを学ぶ必要がある。
次の夏、私達は狩猟免許を取得しました。オレンジ色の狩猟ベストを着て猟師の先輩方に教えを乞うことは、協力隊としての私なりの「決意」と「覚悟」でした。

―――日本農業新聞2021年11月18日(木)掲載
※許可をいただいてます

コラム3


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?