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俺は何者だ? 金城一紀「GO」

もし独断と偏見で選ぶなら、この本が僕の中でぶっちぎりの一位だと思います。

金城一紀「GO」

大切なことを伝える時は重い話でなくとも伝わるもので、むしろその明るさがあるからこそ暗さは輝く、なんて気がする本で

泣きたいくせに笑ってるみたいな、人物それぞれに重いものを背負っているのに無理して笑ったり生きたりするといった、そういう類の悲しさを感じさせてくれます。


「GO」

在日コリアンの「杉原」を主人公として、彼の恋愛を中心に「在日コリアン」であることに振り回される姿を描いています。


1)書きたいことがいっぱいあって困るのですがまず凄いのは、あくまで「恋愛小説」であるということ。

在日コリアンの問題や差別を描くのなら、堅苦しい小説になりそうだが難しい用語などは一切登場せず、日本に住む一人の少年として書ききっています。

本文でも
"これは僕の恋愛に関する物語だ。その恋愛に、共産主義やら民主主義やた資本主義やら一点豪華主義やら菜食主義やら、とにかく、一切の『主義』は関わってこない。念のため。"    (引用 金城一紀「GO」p7)

と書かれており、あくまで一人の人間、それに的を絞っていて、日本に生まれ育ったのに国籍が朝鮮というだけで差別される現実がある事を難しい言葉よりも身近に感じて欲しかったのかなと勝手に思っています。


2)次に、要所要所に出てくる「つうなネタ」の魅力。

突然にブルース・スプリングスティーンが登場したり、「ジミヘン」や「ルオー、シャガール、ダリ」「モーツァルト」「マイルス、ビルエヴァンス」「ゴッドファーザー」本当に数え切れないほど出てきます。

これらも物語に大きな影響を及ぼしていて、時に切なく、時に面白く進んでいきます。たまに自分が知っているものが出てくると興奮するし、何度見返しても飽きがこない程バラエティゆたかで少しマイナーなのもいいです。


3)最後に、登場人物の魅力。これが一番大きいと思います。

例えば、杉原の父親は在日朝鮮人で元プロボクサーだった人で、妻が家出して落ち込むとゴルフのパッティングを練習しだすという可愛さもある人。杉原が警察のお世話になると、警察がひくまで杉原をボコボコにして許してもらうのは普通に恐怖を感じます。

また、杉原の友達も(日本人はおらず在日コリアンだけなのですが)一人一人愛おしくて、在日という内側で仲間以上の存在になっていて一緒にパトカーを襲撃したり、ぶっ飛んでます。

僕はこういう、ぶっ飛んだカッコ良さにも惹かれますね、少年の夢です。



色々、書いてきましたがやっぱり根底にあるのは在日への差別があると思います、ネタバレがあるので詳しくは言えないのですが、この小説ヒロインは日本人、主人公は在日コリアンです。

その差を、彼らがどう乗り越えていくか。

今回、言った全部のことがそこに繋がっていると思います。


本当に一回読んでみることをオススメします。



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