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リアル寄り洋風ファンタジー → SF転生

【ジョン・レンダー少尉:惑星級戦術護衛艦ニューカッスル動力部門第17区画都市内の休憩施設にて】

間近で見たコーフ灯台の火より明るい眩さで目を覚ました。全身を動かすと身体を覆っている泥のような液体がまとわりついてきた。ここはどこだ?今は何時だ?そう思い始めるまもなく肉体は眠りを欲しているようだった。

突然脳内に騒音が挿し込まれた。

話者は声のトーンを上げて声真似を始めた。

“おはようございます新兵!お目覚めのところ大変恐縮ですがフィリップ司令官による集合オリエンテーションが4分41秒後にR177ハンガーで開催されます!本オリエンテーションは本日徴用された新兵の皆様に対する状況説明のため新兵の参加は必須です!開始時刻までに体調と身嗜みを整え、ハンガーに集合してください!不明な点はインクリュージョンデバイスに個別に確認願います!なおこの連絡は指向性回線を使用しておりますので今現在ラーズジェルを使用している新兵の皆様には養液伝導変換音声で一方的に送信しており…“

似てるだろう?あれがAIだと知ったのはかなり後になってからだ。

とにかく意味不明だった。聞いたこともない単語が並んでいて何も頭に入ってこなかった。耳を閉じても体中から頭に流れ込んでくる声を聞いているうちに頭ははっきりして、目も光に慣れてきた。はじめに自分が割れた卵殻のような形状の構造物に入っていることに気がついた。立ち上がって卵から出ると身に粘性の液体がくっついてきたが全身を引き揚げた瞬間に乾いて消えた。ゆっくりと足を踏み出して扉と思わしき切れ目のある壁に近づくと甲高い音声が頭の中に響いた。

“新兵に警告!新兵は配布された式典用礼服を着用するように!裸で教養スペースを闊歩することは召集連合軍規則98条7項12により罰則の対象となります!“

「誰だ!」

築城師とはいえキングスランドの端くれ兵士がいささか間抜けだったな。思わず振り返って声を張り上げたんだが、周りに誰もいないことはさっき部屋を見回した時に確認済みだ。ただ無駄ではなかった。卵形の構造物はいつも間にか小さなスツールに姿を変え、その上に折り畳まれた服が積まれている。

“私はインクルージョンデバイス。新兵の体内に注入されたミクロサイズの無数のナノチップの集合体です。各新兵のステイタスを精神面、肉体面からサポートし、情報を逐一、惑星サイズの健康管理マザーシップ“メトセラ”に送信します。付属的な機能として新兵の行動管理、必要な情報の付与、メンタルケアも行いますのでいつでもお声掛け下さい。“

また頭の中で声が響いた。卵殻の中で聞いた声と同じ、何を言っているのかさっぱりわからない。とりあえず気に食わない点を正すことにした。

「おい」

“声紋を認識しました。新兵、用件を述べてください“

「新兵ってのは無しだ。ジョンだ。レンダー家のジョン。呼び方は何でも構わないが新兵と呼ぶのだけはやめてくれ」

“要請を受け付けました。ジョン。”

「それでいい」

“礼服を着てください。オリエンテーションまで残り2分25秒しかありません。初回オリエンテーションに遅刻した場合の罰則は召集軍規則第2条1項に基づき…”

私は途中から理解を諦めて姿なき声に従うことにした。信用したわけではない。ここがどこであれ今の私にはこの身一つで何もない。危機的な状況でも身を委ねて突破口を探るのがレンダー家の家訓だ。

用意された服は今まで見たこともない生地で織られていた。これほどの滑らかで重さを感じさせな生地はネオポリスで売られていた南方の特別な水で作られた着物を思い起こさせた。ここがどこか見当もつかないが、沈没都市との交流があるのかもしれない。今思うと笑えてくるが手がかりを見つけたと思ったね。さっそく光明が見えてきたんだと。

上下を着用し、再び切れ目の入った壁に近づいた瞬間にがっかりした。いや実際はもっと複雑な感情だったんだが要するにごちゃ混ぜだ。切れ目の入った壁は手を触れる前に崩れ落ち、空間が広がった。目に飛び込んできたのは先ほどまでいた部屋をそのまま拡大したような巨大な空間と自分と同じように戸惑う無数の同胞たち。

皆が目を向けていたのは一方の壁一面に広がる夜だった。

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