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王立宇宙軍は、坂本龍一を世界のサカモトに押し上げた

Abstract: Ryuichi allegedly considered his work on the animated feature "Royal Space Force: The Wings of Honnêamise" (1987) a blemish on his career. However, the soundtrack for the movie "The Last Emperor" (1987), which marked a significant turning point in his career, clearly contains motifs similar to those in "Royal Space Force." This animated film shares a kinship with "2001: A Space Odyssey" in its portrayal of the mystical experience of being freed from Earth's gravity and reaching the heavens. Ryuichi's keen intellect discerned this while reading the screenplay and storyboards, and he sublimated it musically into a specific harmonic progression, which this essay examines. Using this as a foundation, he further soared, creating seemingly incomprehensible ostinatos and placing them at various turning points in the "Royal Space Force" narrative, much like the monolith in "2001." This ostinato reappeared in "The Last Emperor," and during the staff preview in Rome, it was so well-received that it brought the staff to their feet in delight. It is indeed ironic that the musical work Ryuichi considered a lifelong disgrace became a stepping stone for his global success.

長編アニメ映画「王立宇宙軍」(1987年)で世に名乗りを上げたアニメスタジオ・ガイナックスが先月末に、皆さまもご承知のような事態と相成ったわけですが、私とはなんの関係のないことですのでスルーして、この映画の楽曲分析を続けます。これまでのぶんはこちら。


今回取り上げるのは、この曲この曲で繰り返される、この音型について。

聴いてみましょう。


訳のわからない音階に思えるでしょうが、私には訳がわかる音階です。

赤で区切った小節が F# Major(嬰へ長調)、緑のが A Melodic Minor(イ旋律的短調)ですね。


それぞれの調でのドレミを、付けていくと・・・

「よけいわからへん」と思う方多数だと思います。しかし私はというと、持って生まれた天才脳のおかげで、ピンときてしまいました。


これです。この和声進行を、音階化したものです。


「だからなんやねんこれ?」と浜田の声が、私の頭蓋骨のなかに鳴り響いていますが、これです。


F♯ Major Key(嬰ヘ長調)と C Major Key(ハ長調)は、北極点と南極点ぐらいかけ離れた調です。

実際、4度圏表と呼ばれるこれを見ると、まさに北極点と南極点です。


互いに最もかけ離れた調の、それぞれ「ド・ミ」のハーモニーが、交互に現れる、この和声進行、「王立」のなかで何度も聞こえてきます。


これきっと、神秘体験のモチーフなのだと思います。「2001年宇宙の旅」に出てくる、これです。

何か物語の転換点になると、この黒い板が出てきて、ヒトを次の階梯に導いていくという、謎の黒板です。


「王立」にはこういう具体的なモノの形をしての神秘体験へのゲートは出てこないのですが、音楽でさりげなく提示されています。


かんじんの映画は、もうずーっと前にテレビでたまたま見たっきりなので、もし記憶違いでしたらアイムソーリーです。前半で宇宙軍のお兄さんたちが何か格闘技の訓練をしているところか、街でどんちゃんさわぎするところで、この音楽モチーフがマーチっぽく鳴っていたような気がします。

リイクニという女の子を音楽にした曲の中盤にも、聴いてすぐにはわからないようにこの和声進行が確認できます。(⇩で論じたとおりです)



そして終盤で、地球周回軌道のカプセル内で、主人公が何か覚醒するときの音楽が、やはりこの和声進行を潜ませています。


黒板ですね「2001」の。怠惰な日々のなかに、明日への、天への覚醒のモチーフがあるぞ、みたいな。


ここまで読んで腑に落ちないでいる方もいらっしゃると思います。「F♯ Major Key と C Major Key が北極点と南極点の関係で、そこを揺れ動く和声というのは、とりあえずそうだとして、冒頭の分析では A Melodic Minor って言ってたジャン」と。

さようでございます。C Major は A Minor と読み替えることもできますよね、いわゆる並行調。ということは A melodic minor scale の音が C major scale の代わりに鳴ったとしても、別に破綻しないのです。


F♯ Major Key と C Major Key が北極点と南極点の関係で、さらに後者が A melodic minor scale に変わるという、この論理的フェイク、じつに龍一的です。フェイクもすべて論理的整合性が保たれているの。

ところでこの不可思議な上昇音階、もうひとつ別の映画のサントラにも聴き取れます。

ここです。


いうまでもなく作曲者は同じ方です。「王立」の次に手掛けた映画音楽ですね。劇中で、皇帝・溥儀の第二夫人が、意を決して屋敷を飛び出していくシーケンスで鳴り響く。



ああ、ここです。この場面。


作曲者は「王立」の仕事については黒歴史として、一切口にすることなく天に召されました。しかしその半年後に手掛けた「エンペラー」の、それも試写の際にスタッフが総立ちになって歓喜したというこのシーンの曲が、彼の忌み嫌ったまんがえいがしごとのなかのオスティナートの、ふたごのきょうだいであったことは、さらにはんとしごにアメリカでゴールデングローブしょう、グラミーしょう、アカデミーさっきょくしょうで三冠王となったじじつをおもうと、まことにきょうみぶかいことにおもわれてしかたがないのでございます。


以て瞑すべし、ガイナックス・・・



 

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