ディラックの石を以って玉を攻むべし
あのディラックが24歳の時に記した、とある論文についてじっくり解読してきました。
私のなかのシャーロック・ホームズが理路整然とワトソンな私に解読過程を語ってくれましたが、それでもなお気になるところが残りました。
そのひとつが、この数式でした。
$${ψ_{α_1α_2α_3}=exp.i(α_1x+α_2y+α_3z-Et)/h}$$
$${{α_1}^2 + {α_2}^2 + {α_3}^2 - \frac{E^2}{c^2} + m^2 c^2 = 0}$$
これ、気体分子の運動を、電子のそれに見立てて算出したものです。
ポールくん24歳がどこからどうやってこの二つを導出したのかは、論文を追えば理解できます。
電子の運動の謎に迫った、かのシュレディンガー方程式を、電子ではなく気体分子に応用すると、最後にちゃんと理想気体の状態方程式 $${PV=nRT}$$ が導出されるよんという論証のための、ファーストステップ(シュ方程式の気体分子版)の解として、上の二つの式が出てくるのです。
ただ、ポールくんが果たしてどんな波動を、この二つの式(波動関数とその条件式のコンビ)から脳裏に思い浮かべていたのか、わからないのです。
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そこで Python を使ってアニメーションにしてみました。前回と前々回にお見せしたとおりです。
こんなものをいくら睨んでも、何もわからない。
そもそも縦軸は、波動関数 ψ の実部として設定されています。(私じゃありません ChatGPT がそうしたんです!)
先ほど、縦軸は z として設定しなおして、ψ については色相で表現するようスクリプトを改めさせました。
こんな風になりますた。
x, y, z の対称性がようやく視覚化されたのはいいけれど、いったい何が波打っているのか、よけいわかんなくなってしまいました。
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そもそもポールくん24歳が、いくら天才でもこれを脳裏に浮かべていたとはとても思えないし。
彼はあくまで、この式の形を眺めていたのです。内容ではなくカタチを。
$${ψ_{α_1α_2α_3}=exp.i(α_1x+α_2y+α_3z-Et)/h}$$
$${{α_1}^2 + {α_2}^2 + {α_3}^2 - \frac{E^2}{c^2} + m^2 c^2 = 0}$$
簡素な数式に落とし込めたらそれでいいとする、彼の研究スタイルがうかがえます。
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ここからが本題です。
この波動関数 ψ(プサイ)は、 x, y, z, t の四つの変数でうごめいています。
(上のアニメーションでは z 軸の波動は省いて、ψ の増減についてもいくつか簡略化が行われています)
変数が四つ、待てよ…
四つではなく、二つにしてもいいんじゃない?
昨日ふっとそう思いました。
空間(3次元)+時間(1次元)でこの物理現実は回っているわけですが、それを空間(1次元)+時間(1次元)と翻案しても、先ほどの数式は別に破綻しないわけです。
こんな風に。
$${ψ_{α}=exp.i(αx-Et)/h}$$
$${{α}^2 - \frac{E^2}{c^2} + m^2 c^2 = 0}$$
Python でアニメーションにしてみると…
横軸が x で、縦軸が ψ。そして時間 t が進んで行く様をアニメーションで表現。
先ほどのものよりすっきり、見やすいものになりました。
くだんの二式は特殊相対論を使っています。時空連続体は2次元であってもさしつかえないという理論でもあります。
ということは空間を3次元ではなく1次元に減らして、時間と等価にしてしまっても、かの波動関数は破綻しないわけです。
じーっと見てみましょう。
宇宙の神秘を感じ…ませんね別に。ポールくん24歳にこのアニメーションを見せても❓だったと思います。
ここで $${ψ}$$ ではなく $${\left| \psi \right|^2}$$ を縦軸に置いてみたら、どうなるかな?
前回ぶんを既読の方ならすぐピンと来ると思いますが、こうなるのです。
高さ一定。どうしてこうなるかは、前回解説したとおりです。気づけばごく簡単な理屈です。
気体分子は無数にあって、果てしなく飛び交っています。
ということはどの位置どの時間においても、同じ確率で存在しています。
存在確率がどんな時どんな位置においても1だってことです。
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もしポールくん24歳が、ここまで私が論じたように、特殊相対論の要請を活かして時空連続体を二次元化して、くだんの波動関数 ψ with 条件式を視覚化できていたら…
そして
$${\left| \psi \right|^2=1}$$
…に気づけていたら、これが存在確率を示す関数になるってことに、世界最初に気づけていたのではないかと想像します。
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ほぼ百年後の人間である私が、上から目線でポールくんに「惜しかったね」と声をかけてあげる優越感に一時浸りながらも「他山之石 以攻玉矣」という格言が脳裏を過ったのでした。