見出し画像

迷える理系大学生たちへ、コップ一杯の水を ‐ 虚数とは何か篇

「虚数」(imaginary number)のお話はそんなにお嫌でしょうか? 前にこんな説明をしました。以下をご覧ください。

これをたいていの方は「線」と見ると思いますが、多少数学的知恵のある方なら「点が無限に並んでいるっていうんでしょ?」と笑みを浮かべるところでしょう。

しかし私はひねくれた性格をしているので、笑顔で「ノンノン」と言いながら、こう説明したくなります。「無限に小さな円が、横にさーっと並んでいるのよ」

詳細はここで述べた通りです。

上の説明を、なんとなくでもとにかく分かった気に皆さんなってくれているという前提で、今回は続きを語ります。いわゆる複素数平面(complex plane)について、です。

高校の数学の授業で、こんなのを習いませんでしたか。

これが「複素数平面」です。たとえばもし「2+3ⅰ」であれば下の平面における A がそれです。「ー2+ⅰ」なら B で、「4」なら C で、「ー3ⅰ」なら D の点が対応しています。

ここからゆっくりと、前回の説明をこの平面に拡張させていきます。

これは「無限に小さな円が、一列に隙間なく並んでいる」ものと見ましょうと前回強調しました。

どうして「円」にそんなにこだわるかというと、i (虚数)は「円」と非常に縁があるからです。そう、エンとエンがあるのですよ。

さらにいうと、もうひとつ円と縁が深いものがあります。これです、じゃーん。

いえトレーナーではなくて、そこにあしらわれている「e」です。

なんなんだっ!と怖くなりますが、実はそんなに怖くない。後で説明しますがこれは円周率(π)の双子さんなのです。円周率を怖がるひとは今日日いないですよね? π と、この e がどうして双子なのか、これから説明します。

こういうの、高校の数学で見かけませんでしたか。微積の授業でです。

またはこんな数式の表を、黒板や教科書で目にしていると思います。

学校の授業ではこの後、黒板なりホワイトボードなりになんかグラフが描かれて、教師がそれを指さしながらどーのこーのと語りだし、生徒たちはだんだん眠くなるのがパターンですので、ここではしません。

要は「この数式についてはどんなに微分を繰り返しても、同じ数式になる」という事実をどうイメージするか、です。

どんなに繰り返しても同じところに戻ってくる、というのはつまり、視覚化すればこんな風です。

くるくるくる… 水車というか円を果てしなく回し続けるイメージ。

どこまで微分しても同じ形がキープされる、それはまさに円周を果てしなく駆け続ける様に重なるわけで、e と π は血縁が濃いんじゃないか…と想像が膨らみます。

ここがわかれば、sinθ や cosθ など三角関数とも血縁であろうと、さっと想像がつくと思います。

実際、DNA鑑定にかけてみると、こんな風です。

どう見ても血縁さんですね。下の図でいうと cos さんの塩基配列は左側で、右側のが sin さんのものです。e が π と双子のきょうだいであることの傍証でもあります。

さてここで、こんな数式をご紹介します。

先ほどお見せしたのとは少し違います。見比べてみてください。下のが先にお見せしたものです。

この式をグラフ化すると、こんな風になるのですが

ところがこの数式についてはというと…

こんな風になります。

i(虚数)を乗数として e^x に絡ませると、こんな風にはっきりと円が図示されるのです。

どうしてか? 証明じたいはそんなに難しくありません。「オイラーの公式」で検索すれば証明を記したページがどっさり出てくるので、意欲のある方はどうぞ。ただ、数学における証明って「よく見ろ、これでちゃんとあっているんだからごちゃごちゃいうな」と寝技をかけられてギブアップを強いられるような息苦しさがありますね。

そこで発想を変えてみましょう。こう考えていくのです。

① e が出てきたら、必ず「円」がそこに隠れている。

そこにさらに「i」が重なってくるとしたら、こう考えていく。

② i が出てきたら、必ず「円」が絡んでくる。


①と②が(変数 x 付きで)いっしょに絡んでくる例として、この数式があります。

先ほどの式です。円を描くという数式。

①と②の二つが x に絡むわけだから、何か二種類の「円」が隠されているのですよ。

二種類の円… いったいなんだと思います?

答えはこれ!

いきなり理科の授業になってしまって恐縮です。ここには二つの「円」があります。


今私たちが検討しているこの式

ここには①と②の二つ、すなわち二種類の「円」があるのだとすれば、それを視覚化すれば地球が太陽のまわりを回る「公転」と、自分自身を軸にスピンし続ける「自転」の二つに当たる…そんな風にイメージできます。

この図をじーっと見つめてながら、このイメージを探ってみてください。

ここにある「O」が太陽で、大きな円周上を、地球がスピンしながら移動している…そういう風に心の目で見つめるのです。

この絵では地球と太陽が同じ大きさになっていますが、実際は違います。太陽周回のスケールで見れば、地球ごときは砂粒よりも小さい、ほぼ「点」といっていい存在です。

何かピンときませんか? 「点」ならぬ「無限に小さな円」が、スピンしながら巨大な円軌道を移動している様こそが「y=e^ix」であるぞって。

ここにある地球を「無限に小さな円」として眺めてちょうだいな

さらに心の目で見つめてみましょう。無限に小さい円といっても、それが一直線に並んで「線」を形作るのは、各無限小円が隙間なく整列していないといけません。拡大図(ほんとうは無限小を拡大はできないし拡大できないからこそ無限小なのですがここでは視覚的理解優先で拡大図を描きます)を描くとこんな感じ。

「乳歯の拡大図ですか?」とか意地の悪い質問をしないように。円です。無限小の円がこうやって接しつつ、線を形作っている様を、心の目で視覚化したものです。いいですか心の目ですからね。このコツがつかめれば、以下の図についても

こんな風に視覚化できます。

無限小の円が、たがいに接しながら大きな円を描いていると見るのです。いいですか「接しながら」です。重なったり埋没したりはしなくて、接しながら大円を描いています。

画鋲(小円に当たる)を使って大円を描くと思えばよろしい。

こういう円を紙に描いてですね、

この円周上に、無限に小さな画鋲を並べ刺していくと思えばいいのです。

もし座標点(1,0)に、こんな印をつけた画鋲を刺して、

次に反時計回りで隣に同じ印のついた画鋲を刺すとしたら、この12時方向の針が少し11時よりに回るわけです。

この要領で反時計回りに円周上にこの画鋲を刺していけば、大円にびっしり画鋲を刺し終えたとき、この赤い長針も反時計回りにぐるっと一周することになります。

この数式は、「無限に小さな円の連なり」として眺めると、太陽周回軌道上に地球が無数に並んでいる様を、真上から見下ろすようなイメージとなるわけです。

ちなみにこの比喩における地球はスピンしていません。無数の地球と接し合う関係だからひとりだけスピンなんてできません。画鋲の長針(赤い矢印)にあたるものが、軌道円周上で少しずつ反時計まわりしていくのです。パラパラまんがみたいに。

難しいでしょうか? 以上の説明は、大学以降でも数学を学び続ける(続けた)ひと向けのものです。入試用数学でもうギブアップという方向けではなないので、もしわけわかんないとしても、それはそれでいいです。


そういうわけで次回に続くよっ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?