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迷える理系大学生たちへ ‐ 虚数とは何か②

前回に続いて、虚数のお話を続けます。

虚数が絡む数式は、見るだけで勘弁してちょと思ってしまいます。私もそのひとりでした。今でもそうです。定義とか証明とか、むろん追うことはできるし公式の類を導出もできる(今は少々怪しい)けれど、それは小学生の子から「このさんすうのもんだいわかんない」と訊かれて連立方程式でちゃちゃっと解いてみせるようなもので、訊ねてきた小学生さんにすれば「なあにこれ?」なわけです。

虚数絡みだと、たとえばこれ。

わけわかんないですよね。前回のぶんを読んでくださった方ならそうでもないでしょうけど。以下、一部重複になりますが改めて説明します。この式は高校で習っていますよね。高校数学。

ここに登場する「e」はネイピア数ともいいます。数学者のネイピアさんにちなんだ名前です。最初にこの記号を使ったのはオイラーなのですがネイピア数と呼ばれています。それはいいとして、これを使うとですね、

「なんでこうなるの?」という問いは愚問ですグモン。こうなるような定数を「e」と呼んでいるのです。具体的には e = 2.71828182845904523536…… と果てしなく続く数です。このよくわからない数を「e」と名付けて使うと、上にあるように微分を何度繰り返しても同じ式になります。もしこれが「5.1」とかの、つまり e ではない数だと、微分を繰り返していくにつれてこの値が変わっていくので、つまりは同じ式をキープできません。e のときだけできます。できるからこそ特別に「e」と名を付けています。

いくら微分を繰り返しても同じ形になる…絵にするとこんな感じ。

さてここでこんな数列を見てみましょう。

1,i,i^2,i^3,i^4,i^5,i^6,i^7 …


これも見た目はおっかなげですが、i(虚数)をどんどん掛けていくとどうなるかって話ですよ。

1,i,-1,-i,1,i,-1,-i,1,i,-1,-i …

これ、何かに似ています。むかあしのテレビ受像機についていた、チャンネルを変える回転装置にです。

これは12+1で13通りに回転する仕掛けでしたが、i(虚数)を掛けていくのは、喩えるならばこの装置を「東→北→西→南」の四方角にのみ回転するようにしたものとイメージしてもらえればイメージできると思います。

一方でこれはどうかな?

これは「ⅰ」を掛けていくのではなく、べき乗していくわけです。「e」が絡むからには円が必ず絡んできます(前回の解説を参照)。もし「ⅰ」を掛けるのならば、上でお見せした昭和なテレビのチャンネル装置のように、がちゃんがちゃんと四方向つまり直角回転しますが、この式はるい乗ですので、がちゃんがちゃん回転にはならないだろうなと推理できると思います。結論をいえばその推理で正解です。回転はもっとなめらかな回転をします。

無限に小さな画鋲(つまり無限小円)が大きな円を形作るイメージ。

前回と同じ話をしてしまいましたが、今回皆さんにしっかり頭に入れてほしいのは「ⅰの掛け算は東西南北ガチャンガチャン回転で、ⅰを使ったべき乗はなだらかならせんを描く」というイメージです。

i(虚数)をべき乗していくのは、喩えるならばらせん軌道の上に、無限に小さな画鋲を互いに接し合うようにして並べていく作業。このらせんは初期設定によって段々半径が大きくも小さくもなって、うまく設定すれば円周にもなるわけです。初期設定をeにすれば円ですね。eには必ず円が隠れていると先ほど述べたのを思い出してください。

らせん回転を円回転にするには初期設定を e(ネイピア数) にする。これはこう言い換えてもいい。「e より大きな値にすると円回転が回転とともに一定比率で画面拡大していくし、小さい値にすると一定比率で画面縮小していく」と。

医療まんが『ブラックジャック』に、アフリカの奇病のお話があります。だんだん体が縮んでいって、やがて衰弱死するのです。主人公の医師はこの病気にかかった動物(人間含む)の細胞を顕微鏡で観察しますが、細胞の大きさ自体は変わらないのです。体全体が縮み、最小単位である細胞は縮まない。

これまで私が繰り返してきた「無限小円」は、この架空の奇病における動物の細胞みたいなものです。違うのは顕微鏡でいくら拡大しても見ることはかなわないことです。純粋に思考論理上のものですからね。それを見ようとするのは「円周率は赤色か緑色か?」と思い悩むのと同じくらいナンセンスです。このらせんについても、無限小の円が連なってできていて、それらのひとつひとつは拡大も縮小もしないけれど、全体としてはだんだん半径が大きくなったり小さくなったりします。eという血清をうてば円です。

無限に小さな円が連なって線を描き、曲線を描き、でこぼこを描く…これがイメージできるようになれば、虚数の理解は容易になって、複素積分とか複素解析とかの名前からしておっかなげなものを齧るときも、お腹を壊さずに消化できるようになります。そのあたりのことは後日、私自身の頭の整理を兼ねて気ままに綴っていきますね。




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