彼はどうやって「ラストエンペラー」を作曲したか?(総括その6)
前回のぶんは自分でもスマートに書けた…と一度は思ったのですがひとつ語り落としていたことに後で気が付いたので、今回は補足篇です。
私が命名した「RSの法則その1」についてです。
これはですね「彼の楽曲において、旋律と和声進行は違う調で奏でられる」というものです。
「ラストエンペラーのテーマ」の主旋律もそうやって作られています。
この旋律について、前回私はこんな風にドレミを書き入れました。
しかし本当はこれだと正しくないのです。以下が真のドレミ表記となります。
中国の皇帝が主人公の映画の曲なので、東洋音階「ラ・ド・レ・ミ・ソ」が使われるのはごく自然な着想なのですが、緑の(いいですか緑のですよ)ドレミを順に目で追ってみてください「ファ」が混じっています。東洋音階には属さない音です。すなわち、鳴ってはならないはずの音です。それがなぜか鳴るのです。
しかし旋律と和声進行は同じ調であるとしらを切ることで、この謎の逸脱音は「ド」とみなされ、東洋音階「ラ・ド・レ・ミ・ソ」に収まってくれるのです。
この音が本当は逸脱音であることをわからないようにするために、作曲者はさらにこんな裏技を使っています。
ここにある「ド」はそれぞれ「レ・ファ・ラ・ド」和音、「ラ・ド・ミ」和音、「レ・ファ・ラ・ド」和音、「レ・ファ・ラ・ド」和音、「ド・ミ・ソ・シ」(を転回して「ミ・ソ・シ・ド」にした)和音、「ファ・ラ・ド」和音の構成音だよーんと、音楽理論的な説明付けがされているのです。
この説明が腑に落ちない方のほうが多いと思います。「旋律が和声進行と違う調であるという前提が、そもそもよくわからない」と。
その気持ちはよくわかります。ところがこの前提を置いて分析を続けないと、この曲(に限らずRSの楽曲)の分析は必ず行き詰ってしまうのです。たとえばここ。(赤の「シ」を緑で括ったところ)
この音は東洋音階「ラ・ド・レ・ミ・ソ」から外れた音ですね。
この私の指摘について、多少音楽理論の心得がある方なら、きっとこんな風に反論したくなると思います。「それは経過音にすぎない」と。つまり例外的なものであると。
そうではないのですよ。もしこの旋律が、和声進行より5度上の調にあると解釈する、つまり緑色でのドレミ表記で考えれば「ミ」になるので、東洋音階「ラ・ド・レ・ミ・ソ」に収まってしまうのです。
経過音などという苦しい理屈付けをしなくても、すっきり説明できてしまいます。
念押しします。この技は「ラストエンペラーのテーマ」のほかに「メリークリスマスミスターローレンス」をはじめとする彼の数々の代表作に通底するものです。今後彼の楽譜に目を通すときは、どうかこのことをしっかり頭に留めて、音符を追ってみてください。
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