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坂本龍一「Before Long」を分析しよう(その3)

その2からの続きです。下の図はその1の終盤からの天才…ではなくて転載です。

自動演奏動画で聴いてみましょう。


この曲は、ところどころ分析困難な小節があって、おかげで分析困難なのですが、要は「ソ」から「レ」にかけて半音下降のライン(緑色でマーク)が旋律に仕込まれていて、それが和声進行をドライブさせていると気づけば、どういうということはない、そういう作りです。

どうして「ソ」から始まって「レ」で終わるのかというと、理由その1は「ソ♭」を活かしたいからです。正しくは「ファ♯」ですね。旋律が和声進行とは調が違っていて、この「ファ♯」(上の楽譜では音符準拠で「ソ♭」としてあります)は⑦の音なのです。Gメジャー調における「ドレミファソラシ」音列の「シ」にあたる音です。⑦の音です。そういうわけで①の音「ソ」との違いを強調するには本当は「ファ♯」と記したほうがいいのですが楽譜にある音符準拠で「ソ♭」としてあります。本当は「ファ♯」です。

ソ ↘ ファ♯ ↘ ファ ↘ ミ

この後さらに

↘ ミ♭ ↘ レ

と続きます。「ミ」で止まらないで「レ」まで下降してしまうのは「ミ♭」を鳴らすためです。緑で括った部位の四声すべてが黒鍵の音になるようにするには、この部位における旋律で「↘ ミ♭ ↘」の半音下降ラインを挿み…

「↘ 」によって白鍵の世界に旋律が戻ってきます。こうやって ①四声すべて黒鍵 → ②四声のうち黒鍵は二つに減る(=白鍵が二つ戻ってくる)進行を支えているのです。 


そうそうこの半音下降ラインにはですね、

こんな風に4度下降のフレーズが埋め込まれています。


しかしここは5度上昇ですね。

どうしてここのみ5度なのかというと…

下の楽譜を見てもらうとわかるように、4度音程で半音下降が連続すると、

この後もきっと4度音程で半音下降していくんだろうなーと聴く側に期待させてしまって、そうなると切りがなくなるので、こうやってリヴァースをかけているのです。

「ミ♭↘シ♭」の次は「レ↘ラ」に行くのだろう…と思わせて「ソ↗レ」を仕掛けています。「レ」を一拍目ではなく二拍目に置く、つまり「レ↘」ではなく「↗レ」として鳴らし、4度音程の「↘」を「↗」にリヴァースするのだから5度音程でっしゃろという理屈です。


その後また4度下降フレーズになるのですが、見ての通り「シ ↘ ファ♯」です。「ソ ↘ ファ♯ ↘ ファ ↘ ミ ↘ ミ♭ ↘ レ」と続いてきた半音下降ラインが、この「シ ↘ ファ♯」で断ち切られています。

ひとつ前の「ソ ↗ レ」によって「ソ ↘ ファ♯ ↘ ファ ↘ ミ ↘ ミ♭ ↘ レ」の半音下降ラインが断ち切られ、その後「シ ↘ ファ♯」(緑でマークしたところ)にバトンがわたっています。

どうして「シ↘」なのかわかりますか。4度下降で「↘ファ♯」に進むとしたら「シ↘」しかないからですよ。「ソ ↘ ファ♯ ↘ ファ ↘ ミ ↘ ミ♭ ↘ レ」の半音下降ラインをさらに延長して「↘ レ♭ ↘ ド ↘ シ」と駒を進めるなどというIMOなことをこの作曲者はしないで、「ソ ↗ レ」とボールを跳ね上げて「↘シ」に戻ってきたところで4度下降を再開させて「↘ファ♯」に進む…

どうして「ファ♯」に進まないといけないかというと、前に説明したのでここではしません。


こうやって図とことばで説明するとすごく難解に思えるでしょうけど、皆さんにはどうか鍵盤に実際に指を置いてもらいながら、以上の説明を耳と指の感触のダブルでひとつひとつ確認しながら確認してもらえると「ああなるほど~」と感じてもらえると思います。


つづくよ

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