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Anime's Sonic Jewel: Ryuichi Sakamoto's Masterful Score in "Royal Space Force"

[Abstract: Ryuichi Sakamoto, who contributed to the soundtrack of the 1987 anime feature 'Royal Space Force,' has expressed regret about his involvement on several occasions. Interestingly, he did not mention the movie in his autobiography, suggesting that he might have lacked an emotional attachment and even considered it a source of shame. Nevertheless, his exceptional talent in composing the film's soundtrack continues to be highly admired by anime fans. This article delves into how his remarkable skills are showcased in the soundtrack, with a focus on the central element of 'major harmony key changing with an augmented fourth interval.']


前に何度か取り上げたトピックです。彼はいろいろな映画の音楽を手掛けてきましたが、アニメ映画に関しては生涯わずか二本、そのうち一本については自分のキャリアから抹殺したいとさえ漏らしていました。「オネアミスの翼 - 王立宇宙軍」(1987年3月公開)です。これの最終作業期は、ちょうど龍一教授が映画「ラストエンペラー」の音楽作業で激務を極めた頃、それにアルバム新作「ネオ・ジオ」の準備や日本国内ツアーと時期が重なっています。「王立」を企画・制作した岡田Pは後々まで「ベルトルッチとの打ち合わせにロンドンまで飛んでいったのに俺らには時間をろくに割いてくれなかった」と悪意の混じった愚痴をこぼしていました。そのあたりのことは前に論じたのと、後日また論じてみたいので、ここでは深入りしません。今日語りたいのは「王立」における緻密極まる音楽演出設計についてです。



これは「王立」で唯一といっていい女性・リイクニのテーマ曲です。ハリウッド映画なら Love Theme of Honneamise とかタイトル付けそう。主人公が心惹かれるこの女の子は可憐なのかどんくさいのかよくわからない。「そこが新しいんだ!」と当時のメインスタッフは力んで語りそうだけど、要はどんくさい古代進くんとどんくさい森雪のペアですね。このアニメ映画は、当時20代だったメインスタッフたちの、成長の糧となった過去作品のいろいろを反転させたようなモチーフが目に付きます。「だがパロディではないのだ!」とかまた力説されそう。それはいいとして、この曲にはよくわからない転調が仕込まれています。


ここの転調(Dマイナー調 → Fマイナー調)は割とありふれたものなのですが…


途中で折れ曲がった感じ、しますね。Dマイナー調 → Fマイナー調 と先ほど転調を説明しましたが、それぞれFメジャー調、A♭メジャー調と呼び変えると、後者は前者をマイナー調化したものと見る(というか聞く)こともできます。詳細は楽典に当たってもらえればわかります。メジャー調がマイナー調に切り替わるわけだから、途中で折れ曲がった感じがします。ちょっと物悲しくなるのです。どんくさ娘の可憐さというところでしょうか。そこまではいいのですが…


ここでまた転調しますね。段上がりしているみたいな感じの。これがよくわからない。


A♭メジャー調から、いきなりCメジャー調です。長3度上がりの転調は、比較的まれなのです。

同じ1987年に作られたピアノ曲「Before Long」でも長3度転調が効果的に使われていました。あれと同じ技かなーとも思ったのですが、どうも違いますね。何度もここの転調箇所を、つたない運指で繰り返し弾いているうちに、気が付きました。これは下段のほうに秘密が隠されているな、と。


ここです。①と③のメジャー・ハーモニーが、増4度音程で上昇し…

同じく増4度音程で戻ってくる。


①と③のメジャー・ハーモニーを増4度音程で繰り返し転調演奏しているうちに、なんだか聞き覚えのある和声進行だなーと気になって、そしてはっとしました。これ、映画の別のシーケンスで鳴っていた音そのものじゃないの!と。


この動画で聴けるのは、実際に映画で使われたものではなく、龍一が最初に作ったプロトタイプ的なものです。映画ではこれの前半部分が、主人公たちの怠惰な兵隊訓練シーンに、中盤部分が有人ロケット離床シーンと、宇宙空間でのわけのわかんない神秘体験シーンで使われていたと思います。

おぼろげな記憶を掘り起こしながら語ると、この主人公くん(声がなぜか森本レオ)が自分の怠惰な兵隊生活に「このままじゃいけない」と思うきっかけが、どんくさ可憐少女との出会いでした。劇中ではとうとう恋人どうしになるまでには行かないまま、その鬱屈というか挫折とも罪悪ともつかないもやもや感を、この主人公は有人ロケットで飛び上がる意地に昇華させて、ひとのたどり着いたことのない世界にただひとりたどり着いたとき、なにかもっと超越したものに覚醒した気分になる…そういうお話でした。怠惰な日々→どんくさ可憐娘との交流→挫折と意地→超日常への覚醒感 という、この映画の物語の基本骨格が、①と③のメジャー・ハーモニーの増四度転調のリフレインによって貫かれているのです。

「長三度の転調が起きる」というよりは、「メジャー・ハーモニーの増四度転調に伴って、長三度の転調が生じる」のです。


この映画についてはその後「忘れてしまいたい」に限りなく近いことをたまに漏らしていた彼だけど、公開の数か月前に出た音楽雑誌では割とはつらつと語っています。インタビューは前年つまり1986年の11月ごろになされた? そうだとしたら「ラストエンペラー」の撮影のあいまに一時帰国していた頃。

「キーボードマガジン」1987年1月号


娘の美雨が当時5歳か6歳だから、いっしょにいろんなテレビアニメを楽しんでいたようですね。「ポリアンナ」と「グーグーガンモ」の名前が出てくる。あはは。後者の主題歌の作曲者とは友人の模様。

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