見出し画像

アキ・カウリマスキ敗者三部作を観て

やっぱり天候と気分はある程度相関性があって、寒いと落ち着いた映画観を見たくなるし、逆に夏、感動、爽快!みたいな映画はあとにとっておこうという気分になる。ロンドンの曇り空を見ていると、空は元々全部白い色をしていて青い部分なんてないんじゃないか、という気がしてくる。

というわけでクリスマス期間中に(この文章は12月に書いたのだ)たくさん映画を見て、気づいたらかの有名な敗者三部作を見終わっていた。最新作「枯葉」でもお馴染みのフィンランドの名監督、アキ・カウリマスキ。初めの一作品目でもう大ファンになってしまった。

彼の大まかかつ共通したテーマは日常と労働であり、その連続に光を当て続けている。その中でも有名な敗者三部作は、「浮き雲」(1996)、「過去のない男」(2002)、「街のあかり」(2007)の三部作を指す総称であり彼の代表作でもある。

「街のあかり」(2007)

どの作品も暗くどんよりした雰囲気があり、俳優、女優ともにピカピカの美男美女ではないものの、全員に味があり、品位がある。

特に気に入ったのは「過去のない男」(2002)。

とことんついていない男の映画である。列車から降りた途端、暴漢に襲われ貴重品を全て奪われ、おまけに殴られた衝撃で自分の記憶さえ無くしてしまう。ホームレス暮らしを転々とする日々。そんな中で会う人々との交流や自分との葛藤を描く話だった。ストーリーというよりは彼の表情やボソボソ話す彼の台詞が中心に話は進む。

いつもはボロボロの服でいるホームレスの友人と「金曜だ。ディナーに行こう」と言い、スーツとシャツを着、髪を整えて向かった先は救世軍の炊き出しの現場。ディナーである。どんなに落ちぶれても心根がシャンとしているのは何故なのだろう。こういう味はアメリカには出せないなあと思った。

救世軍の女性といい雰囲気になったときの台詞。

「昨日、月に行った」
「どうだった?」
「静かだった」
「誰かいた?」
「いいや、日曜だった」
「だから戻ってきたの?」
「いやもう一つ理由がある」

「過去のない男」(2002)

ジョークなのかなんなのかわからないシュールな情景がものすごく良い。

「金は払う。死と同じで確かだ」


結局、どこか遠くの国や星で起こるスーパーマンの成功物語でワクワクするよりも日常の浮き沈みの中にある小さな幸せで一番僕たちは救われるのかもな。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?