「非行に走る子どもは悪なのか?」この問いに答えが出せなかった。だから動いた。テラロック・寺西康博さんインタビュー
香川県で公務員としての本業の傍ら、いや、傍らというには熱すぎるほどの情熱で、テラロック(寺西・ロックフェスティバル)という活動をされている寺西康博さん。
テラロックとは、寺西さん主宰の「テーマ不問の、熱をもった人たちが集まる場所」をつくる取り組み。そんな活動をされている寺西さんが語ったのは、若者が育っていく上でどのようなものに触れていけば良いのか、そして、大人はどのような場所を若者に用意してあげれば良いのか。
教育をトピックの中心に置きながら話をお聞きしてきました。
プロフィール
原体験から、テラロックへ
——寺西・ロックフェスティバル。通称テラロック、かねがね噂はお聞きしております。いきなりなんですが、なぜ公務員でありながら、その枠を超えて活動を始めようと思ったのか、その原体験をお聞きしてみたいです。
人の考えや、頑張っている活動の話を聞くのが子どもの頃から好きだったんです。
ぼくは香川の生まれなんですが、そこで両親はうどん屋を営んでいました。自営業をする家庭で育ったので、お客さんと話をする空間が日常のなかにあったんですよね。つまり、全然知らない人と話をする機会があったということです。
対話をする空間があったり、友達と未来の話をすることが楽しかったりという所がルーツなのかなと思います。
とはいえ、それだけがテラロック主宰へとつながった訳ではないんですよ。子どもの頃にお互いの夢を語り合うとか、知らない人の話をただただ聞くっていうのは、ぼくにとっては心地の良いことだったので。
——なにか、それ以外にも大きなきっかけがあったのでしょうか。
本省で働いていた時に強烈な体験がありました。
児童の自立を支援する施設にいって、そこの寮の管理人さんと話す機会があったんです。
「非行に走る子ども達は、もともと悪なのではない。環境がそうさせてしまうんだ」
寮の管理人さんが、おっしゃっていたことが印象につよく残っています。自分は、それを日常生活の中に捉えられていませんでした。その体験で、見えていない世界があるんだと気づいたんです。
片や、霞が関で働く人たちは、仕事に誇りをもって国のために一生懸命働いているんですよ。ものすごく大事なことなんですけど、おそらく大半の方は、凶悪犯罪を犯すことも、それを犯した人と話すこともないでしょう。それらは一生つながることがない。
妙な世界の断絶があるな、と。
この断絶をどうにか埋められないかということで始めたのが、テラロックなんです。僕は幸いにも価値観の異なる方と出会う機会を仕事で得て、新たな世界を知りました。僕の信頼する人と、その人たちが信頼する人が集まってできる対話の会。自分の活動をきっかけにして、価値観の異なる人たちが出会ってくれればいいなと思っています。
やりたいのは、このテラロックというアクションを通して、個々人のなかにある価値観を変化させたり、拡張したり、そんな化学反応なんです。
一本軸って、とても弱いから。
自分のなかに色々な基準をもっているほうが、物事を多面的に観られるし、考えの異なる人に優しくできます。例えば、外国人の親友がいたら、外国人という枠で括られがちな問題や、外国などに対するイメージとか発言の仕方って違ってくるのではないでしょうか。
基準を絶対化しないというのが大事なんですよね。
なにより、違う世界の人と話をするとパワーがもらえるんですよ。だから、テラロックの中で、何かを教えたり教えてもらったりするというのを打ち出しはしません。違った環境にいる人と人とが、繋がっていくなかで生まれるエネルギーを大切にしたい。
人に何かを与えたいんじゃないんです。自分がエネルギーをもらいたい。楽しみながらやっていきたいです。
基準を増やし、若者のために受け皿を
——自分の中にたくさん基準を持つのが大事……。面白いです。例えば、それは教育を受けている若い世代にも可能でしょうか?どうすれば基準を増やしていけるのでしょう。
そう考えると、学校の勉強も目の前にないものに触れるという点で、素晴らしい役目を果たしています。自然科学の勉強をして、世界がどんなふうに動いているのかというのを知るのも価値観の拡張ですし、歴史を学ぶのなんてまさにそうですよね。過去の人がどんな基準をもって暮らしていたのかという。
基準を増やすには、自分の目の前に無いものに「どう触れるのか」ということを考えていくといい。
例えば、そのための手段がテラロックなんですよ。価値観の異なった人の話を聞くのは、生き方の参考になったり、そんなことにもチャレンジできるんだといい影響になったりもする。もちろん、テラロックじゃなくてもいい。岡山の藤田さんがやっている「COMPUS」もすごくいいですよね。長期インターンも、学生にあたらしい基準をつくってくれます。本来なら、働いていないであろう時期に、先取りして社会で働いているんですから。
ただ中高校生や大学生の誰しもが、自発的に外に飛び出して新しい何かが出来るわけではないのも、もちろん知っています。自分が10代20代のときに、自由がどれほどあったのかと考えてみると、自発性を求めるばかりではなかなか現実的には厳しいと思うんです。
だから、学校教育の外にいる大人としては、若い人たちの想いの受け皿をいかに増やしていけるかということを考えています。「彼らが勇気を出せば何かができる場所」を大人が作っていくのが大事。そのうえでやりたいことが見つからないのなら、時間をかけて見つけていけば良い。なにも、やりたいことが無くたって良いんです。そこに優劣はないから。
前提として、学校教育になんでもかんでも用意してもらうのは無理があると思っています。日々の業務に加えて、新しい活動を先生方に求めるのは大変です。教育の内側にいる人たちと、外側にいる人たちの役割分担がある。
まず、受け皿をつくるためには、大人が子どもの可能性やパワーを信じること。「学生はビジネスの世界では役に立たない」という空気の中から、学生の力を信じる人たちが現れて、長期インターンが定着していきましたよね。
まずは枠をとらえて、広げる
——寺西さんがアクションを起こす時には、どんなことを大切にしていらっしゃるのでしょうか?
ぼくは公務員としての肩書きも持っているので、どの辺りまでがOKなのか、NGなのかをしっかり捉えるのを大事にしています。ずっと破壊しようとするばかりではダメで、どこまでが制度上許されているのかということを意識しながら、拡張するのか、変化させるのか、それとも新しい制度を創るのかを考えていかないといけない。
型を破るには、まず型を知ること。明文化されているルールを認識したうえで、それを守りつつ、最大限できる打ち手をやっていくのが大事なんです。
いま、公務員がもっと別の世界を知ることができる仕組みを整えたいなと思って、新しいものをつくろうとしています。先ほど、学生に受け皿を用意することが大事だという話をしました。それは学生だけじゃなくて、公務員にも、どんな人にも必要なものだと考えています。
熱い思いはあるが、組織を動かすことができなくてやりたいことができないっていう人や、何か行動したいけど何をやったらいいかわからないっていう人はたくさんいるんですよ。そんな人たちの想いを受け止めてあげる場所を創りたい。想いの受け皿を創りたいんですね。
別の世界に飛び出すと言っても、いますぐに仕事を辞めろとか副業兼業をやれというわけではなくて。
想いが溢れている人たちが、いままでボランティアでやっていたような事柄を、より事業領域に近いところで実現していける仕組みを創りたい。そうすれば、そこで公務員以外の働きのなかで得られた経験をもとに、ステップアップしていろんな活動ができるようになるはず。
副業兼業の流れって、もう結構進んできていて、どんどんスタンダードになっていくとは思うんです。ただ公務員の仕事場では、組織ごとに規定があったり曖昧だったり、基準すらもはっきりしていないところもあります。「いきなり副業はハードルが高い」と考える人も多くいるんです。
その前段階として新しい仕組みづくりを考えています。これも、できるなかで最大限のことをやろうということ。
テラロックも、新しいチャレンジも、ぼくの情熱が尽きるまで頑張っていきたいですね。
インタビューを終えて
学校に入学して、違和感を感じる機会はたくさんあると思います。
だけど、「変えたい」というだけでは、意見が通らないことはたくさんある。ひとつのルールにも、成り立ちや歴史が詰まっているからです。そのルールも誰かが誰かを守るために作ったものなのかもしれない。時代錯誤なものがあったとしても、それを破壊しようとするだけではダメなのです。
まずルールを捉えること、その上で最大限のアクションをしていく。そして本当に変える必要のある部分や、拡張可能な部分を見定めるということが大事なのだとわかりました。
「受け皿」という言葉が印象的です。なにかやってみようかなと思った若い人たちが、自由に羽ばたける場所をつくっていくこと。それが学校の外側にいる大人達の目指す教育の姿なのかもしれません。問いは続きます。
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