装丁の想定『あ・うん』
「装丁の想定」
実在する本の表紙に使われるイラストをイメージして、個人的に制作した絵のシリーズ。2010年くらいから細々と描き続けています。
こちらは2015年の作品。
日本図書設計家協会さん主催「第3回 東京装画賞」にて東洋インキ賞をいただきました。
『あ・うん』 著:向田邦子
サラリーマンの水田仙吉
その妻・たみ(「阿吽」と称される夫婦)
仙吉の親友でたみに懸想している門倉修造
…の3人を中心に、昭和初期の庶民の暮らしを描いた小説。
昭和初期のお話なので、そこはかとなく日本画的な雰囲気になるよう意識し、大人っぽい印象に仕上げられたと思います。
向かって左の果実は仙吉、中央はたみ、右は修造のイメージ。
この三人の他にも作中にはままならぬ人間関係や叶わぬ恋が多く、
サブタイトルに「青りんご」や「実らぬ恋」という話が収録されています。
さまざまな登場人物がめいめい思わぬ方向へ転んだり衝突する様をごろごろ転がる果実に見立てました。
受賞後、審査員のデザイナーさんにどこが評価されたのかうかがうと
「絵の雰囲気もいいけど、果実の正円ではない丸みとひらがなの丸み、うねりがマッチしている」と。
そこは自分ではあまり深く考えずにやっていたので、そうかデザイナーさんはそういうところを繊細に意識されているんだなーとけっこうな衝撃でした。
と同時にやはり私は「絵を描く人」なんだなと改めて思いました。
(東京装画賞はあくまで装画のコンペですが、デザイナーさんはやっぱりデザインに注目してしまうらしいです)
制作過程
果実の陰影と、その表面の斑点をそれぞれ分けて描いています。
これをスキャンし、Photoshopで版画のように重ねます。
斑点の版に赤色をのせてみるとこんなかんじ。
この版作りも最初からPhotoshopでやったほうが早いのですが、シャーペンで描いた質感はなかなか再現できないので情感を出したいときは地道に塗り込んでいきます。
できあがった版と色面をどんどん重ねていきます。
林檎や梨など明確にどの果物というわけではなく、なにか象徴的な果実、というふわっとした括りで描いています。
(どこか体温めいたものを感じる赤や緑を入れたかった)
重ねる色を変えるとまったく違う印象になります。
小説の雰囲気には合わないけれどこれはこれで好き。
背景の色なども何パターンか作りましたが、最終的には一番シンプルなものに落ち着きました。
キャラクターを遊ばせるようなイラストとはかなり雰囲気が違いますが、これもとても気に入っている作品です。
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